第653話性欲

「とにかく、あんなのを初めてにカウントされてたなんて心外だから、今度こそ本当の初めてをしようね」


「・・・本当の?」


「そう、あんなのじゃない、今度はそーくんが気持ちよくなりかけても出せないようにしてから、24時間中ず〜っとシようね?」


「ひっ・・・」


 じょ、冗談にしても最悪な冗談なのに初音の場合本気で言ってるっていうのが伝わってくるから余計に最悪だ。

 もし本当にそんなことをされれば俺は体力が尽きて本当の本当に死んでしまうだろう。

 死因が初音とのそういう行為・・・って言うのは何がなんでもダサすぎる。


「そーちゃんの初めては私の・・・初めてだけじゃなくて、そーちゃんはずっと私のだから、虫なんかとそんなことさせるわけないでしょ?」


 本来なら彼女である初音の方を支持すべきなんだろうけど、今だけは結愛のことが天使のように思えた。


「シようね〜!そーく〜ん!」


 が、初音は結愛のことを無視して俺の相槌を求めてくる。


「・・・・・・」


 俺は沈黙を貫き通すも・・・


「ね〜!」


「・・・・・・」


「・・・ねぇ〜?」


 今度は圧をかけるような声音で言ってきた。


「え、えーっと・・・ま、まぁ!き、機会があれば!」


 俺は当たり障りのない返答をする。

 ・・・いや、したつもりだったが。


「機会があればって何?機会がどうのじゃなくてこれは決定事項なの、改めて言い直してくれる?」


「違うよ、そうじゃなくて、そーちゃんは遠回しに虫なんかとそんなことしたら汚れるからそんなことしたくないって言ってるの」


「えっ」


「そーくん?」


「ち、違う違う!お、俺は、ただ、その・・・い、一日中そう言うことをするのは体力が持たないなって思っただけで・・・べ、別に初音とのそういう行為が嫌って言ってるわけじゃないからな?い、一応俺だって男子高校生だし、人並みに性欲もあるし・・・」


 俺は早口で言い訳を述べた。

 言い訳と言っても大部分は本音なため、思っていることも伝えられただろう。


「・・・は?今なんて?」


「・・・ん?」


 ・・・と思ったのだが、初音には引っ掛かるところがあるらしい。


「だ、だから体力が──────」


「そこじゃなくて、最後」


「最後・・・?俺にだって人並みに性欲があるから別に初音とのそういう行為をしたくないわけじゃないって説明──────」


「嘘つかないで?」


 えぇ・・・なんでこれが嘘になるんだ。

 さっき初めてに嘘をつこうとしたことが、実はそれは嘘でもなんでもなく、今度は本音で言ったことが嘘だと言われてしまうのか・・・


「う、嘘じゃない!」


「嘘!そーくんに人並みに性欲なんて素晴らしく便利なものがあるなら私だってここまで苦労してないの」


「え、いやそれは───────」


「そーちゃん、これは残念だけど虫の言う通りだよ・・・」


 あの結愛が初音の意見を支持・・・!?


「ま、待ってくれ、俺にだってちゃんと性欲というものは存在し──────」


「存在してるなら!今頃そーくんは私と100回はえっちして5回ぐらいは私のこと夜這いして1回ぐらいは私のこと無理矢理犯したりしてるからっ!!」


「うっ・・・」


「そーくん、自分が性欲なんて人間として立派な本能があると思ってるの?ないよ?ないからこんな面倒なことになってるんだよ?」


「うぅ・・・」


 なんだかもう・・・泣けてきた。

 なんで今まで頑張って色々と自制してきた結果ここまでめったうちにされないといけないんだ・・・!

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