第638話霧響と母さん

 霧響は俺に飛びつくように抱きつこうとしてき──────


`バタン`


「あ・・・」


「えっ!?なんで閉め出すんですか!?お兄様!?お兄様〜!!」


 反射的に閉めてしまった・・・

 い、いや、一旦状況をまとめるためにもちょうどいいな・・・

 な、何がどうなってるんだ?なんで霧響がここに?

 向こうの家にいたはずじゃなかったのか?

 っていうかそれなら今家には天銀とあゆしかいないのか?


「・・・・・・」


 色々と嫌な予感しかしない。

 今俺の状況は考えうる限り全て最悪を尽くしてしまっている。

 本当に神様はなんでいつもいつも俺にこんな試練を・・・


「お兄様〜!開けてください!」


「っ・・・」


 そろそろ開けないと近所迷惑になるかもな・・・

 俺は観念し、ゆっくりとドアを開ける。


「あっ!お兄様!なぜ私のことを閉め出したんですか!」


「い、いや・・・な、なんで霧響がここにいるのかと驚いて・・・」


「お兄様は驚いただけで最愛の私のことを閉め出すんですか!?」


「そ、そういうわけでもないんだけど・・・」


 その言い方には非常に語弊が含まれている。


「ふふっ、最愛というところは否定しないんですねっ!お兄様っ!」


「か、家族としてって意味だからな!?別に恋愛感情とかそういう意味じゃ──────」


「か、家族・・・!お、お兄様!気が早いですよ!まだ私たち婚約もしてないじゃないですか!」


「結婚した後の家族って意味でじゃないからな!?」


 はぁ・・・普通の兄妹ならそもそも結婚なんて考えがないから家族愛とかで通じるのに霧響の場合はもともと家族なのにさらにその結婚の後の家族の方を考えてるってことだな・・・


「もうっ!うっかり本音が漏れ出てしまったからと言って照れなくてもよろしいのに〜!」


「だから──────」


「明くんどうしたの〜?」


「あっ、か、母さん・・・」


 霧響にもう一度弁明しようとしたところで、玄関が騒がしいと思ったのか母さんが玄関を覗きに来た。


「あ、な、なんか霧響が──────」


「あっ!きーちゃん!?」


 俺が言うまでもなく母さんは霧響の存在に気づいたらしく、すぐに霧響の目の前まで行った。


「ただいま帰りました、お母様」


「きーちゃん!!」


 母さんは霧響のことを抱きしめた。

 ・・・母さんはやっぱり霧響を生み出しただけあって霧響と似て美人だ。

 ・・・あ、こんなことを言うとマザコンだとかシスコンだとか言われそうだから当然口に出しては言わない。

 母さんと霧響はお揃いで髪の毛がロングで顔立ちもだいぶ似ている。

 強いて言うなら母さんのほうがちょっと大人っぽさがあるかもしれない。


「く、苦しいです、お母様・・・」


 そしてこれは親だから特に気になってはいなかったが、胸も結愛と並ぶぐらいに大きい。


「ん〜!久しぶりなんだから〜!」


 そう言って母さんはさらに強く霧響のことを抱きしめた。


「それに!明くんはもう恋人を作っちゃったんだから!こんなこともできないでしょ?だから!きーちゃんには明くんの分も───────」


「私だってお兄様と婚約したいです!」


「もう〜、またそんなこと言って〜」


 またって・・・母さんは霧響が俺と結婚願望があることを知ってたのか。


「前から言っていますが!いつまでも子供扱いしないで下さい!!」


 前から言ってたのかよ!!

 俺の知らないところで危うく結婚させられるところだった・・・


「はいはいっ!きーちゃんも早く入って入って!」


「〜!!」


 霧響は母さんの前でだからなのか、本当に子供のように喚きながら家の中に入ってきた。

 ・・・え、っていうかこれ・・・まずくないか?

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