第631話遠回りな口論

「えー、でもでも、優秀な人がそーくんに合わないって言う意味なら、私なんかより全然桃雫さんの方が優秀だと思うよ〜?」


「え〜?そんなことないよ〜、白雪さんになんて私全然及ばないよー」


「そんなことないよー、あははー」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 いや!この沈黙が怖い!

 初音と結愛のことを全く知らない人がこの状況を見てもただただお互いに謙遜し合っているだけの図に見えるだろう・・・

 だが、俺はこの2人の普段のことを知ってしまっている。

 だからこの沈黙の間絶対に心の中で考えたくもないようなことを互いに考えていることがわかってしまうというのが、俺としてはなんとも心苦しい。


「もう〜!2人ともそんなに謙遜し合っちゃって〜、んー、でも、そっかー、明くんには合わないのかなー?」


 母さんが結愛の意見を聞いて少し戸惑っている。

 い、いいぞ、結愛・・・!

 ・・・いや、いいぞ結愛なんて言うと心の中で浮気してるみたいだけど、そう言う意味ではなくてあくまでも高校生での結婚を防げるかもしれないという意味でのいいぞだ。


「明くんは初音ちゃんのことどう思ってるのかな〜?」


「・・・えっ!?お、俺!?」


「うん、やっぱりこういうのは明くん本人に聞かないとね〜」


「・・・・・・」


 そこで俺に振るのは本当にナンセンスもいいところだ最悪の選択肢だなんでそんな選択肢を選んだんだ!!

 おかげで────────


「・・・・・・」


 そーくん、わかってるよね?


「・・・・・・」


 そーちゃん、わかってるよね?


「・・・・・・」


 というのが聞こえてくる!

 どっちを選んでも絶対に良い結果にはならないことが約束されている選択肢・・・!

 俺が一番嫌いな感じのやつだ・・・!

 でも俺だってバカじゃない、こんな状況はすでに想定済みだ・・・!


「い、いや、お、俺は初音とは合ってると思ってる」


「っ!そ、そーくん!」


「・・・・・・」


 初音は喜びの顔を、結愛は表情こそ変わらないが明らかにくらい何かを纏っている感じがする。

 こう言うことによって、まずは初音と合っていないということは否定する。

 そして・・・


「で、でも、やっぱり高校生の段階での俺がそう感じてるだけで、もしかしたら将来的にはちょっと変わってるかもしれないから、今急いで結婚どうのを決める必要はないと思う」


 と、半分は結愛の機嫌を取るための、そしてもう半分は俺の本音で答える。

 これで初音と結愛両方を怒らせることなくことを済ませることができ、俺の本音も柔らかく伝えることができる。

 ・・・いつにも増して完璧すぎる!


「それって明くんと初音ちゃんがいつかは別れるかもしれないってこと?」


 母さん!!それは絶対に今ここで俺に聞いたらいけないことだ!!


「え、あ、い、いや、そ、それはわからないけど、そ、その可能性もあるかもっていう話───────」


「そんな可能性無いよね?そーくん」


 うっ・・・


「ううん、そーちゃんの言う通り、未来のことなんて誰にもわからないんだし、可能性はあると思うから、私はそんなに焦らなくても良いと思うよ?ね?そーちゃん」


「今こんなにもラブラブな私達が別れるところなんて想像できないし、ネガティブよりはポジティブの方が良いよね?そーくん」


「白雪さん、それはポジティブじゃなくてただマイナスなことから逃げてるだけじゃないかな?」


 あー!!!!!

 誰か助けてくれ!!もうこれは収拾がつかない!!!!!

 そして、それから母さんには見えていないであろういつもに比べれば大分遠回りな口論は、10分ほど続いた。

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