第629話認める直前

「──────・・・」


 初音は子供が・・・から始まる何かを言おうとしたが、その前に俺のことを一瞥した。


「えっ?」


「・・・・・・」


 初音は余計なことは言わないでねという目で見てきた。

 俺は小さく、そして早く首を縦に振る。


「・・・子供は、後日そーくんと作る予定です」


「・・・えっ、は──────」


「っ!!」


 ひっ・・・そ、そうだった・・・よ、余計なことは言ったらダメなんだった・・・


「どうしたの?明くん」


「あ、な、なんでもない」


 俺は母さんにそう誤魔化し、改めて初音の言葉を待つ空気を作る。

 そして・・・


「子供は、後日そーくんと作る予定です」


「・・・後日ってどのぐらい先?」


「明日にでも作るつもりでいます」


「そこまで明くんのこと思ってくれてるなら──────」


 母さんが初音のことを認めようとした直前───────


`ピンポーン`


「・・・ん?宅配便?」


「え〜?せっかく明くんが恋人の初音ちゃんを連れてくるって日に宅配便なんて頼まないよ〜」


「え、じゃ、じゃあ、誰だ・・・?」


「ん〜、まぁ今は大事な時だし、一旦無視で良いよ〜?」


「いえいえ、私のことなんて気にしないでください」


 初音はあくまでも良い人を演じる・・・いや演じるなんて言ったら初音は元は良い人じゃ無いみたいだが、少なくとも普段の初音なら「今私と話してるから私に集中して?」とか言うところだろうな・・・


「そう〜?ごめんね〜?」


 そう言って母さんは玄関に向かった。


「・・・そーくん」


「ひっ!」


 一時的に俺と初音は2人きりになり、初音がさっきまでの高いトーンから、一気に少し不機嫌そうな声のトーンになった。


「何度も言ってるけど、余計なことは言わないで、あと、私が何か言ったら基本的に頷くように合わせておけばいいの」


「で、でもこういう時に根も葉もないことを言うのは───────」


「わかったよね?そーくん」


「─────はっ、はい!わ、わかったわかった」


「うん、そーくんはそれで良いの」


 俺は初音の圧に気圧されてしまい、思わず敬語になってしまう。


「え─────!?」


 玄関から母さんが大声で叫ぶ声が聞こえてきた。


「な、なんだ・・・?」


「そーくん、私たちも玄関行こ!」


「あ、あぁ」


 俺と初音は一緒に玄関に出た。

 すると・・・


「そーちゃんのお母さん!お久しぶりです!」


「・・・え?」


 そこには、今俺の家にいるはずの結愛の姿があった。


「───────・・・は?」


 それを見た初音の顔は、明らかに焦っている・・・計算外というのが顔を見ただけでもわかるような表情をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る