第624話謁見まであと2時間
「・・・あっ、そーくん、もう九時だね」
「────え、あ、あぁ、そ、そうだな・・・!」
俺はなんとか結愛と霧響に助けてもらいながら、九時まで俺のことを襲おうとする初音から逃げ、粘ることに成功した。
「・・・九時に何かあるの?」
九時という単語を疑問に感じたのか、結愛が質問してきた。
「え、あ、あー、そ、それは──────」
俺が誤魔化そうとするも、初音に「黙ってて」という目を向けられたため、俺は黙る。
・・・多分俺が誤魔化すと変にボロを出すと思われてしまったんだろう。
「別に、ちょっとそーくんと外に出るだけ」
「・・・そ」
「・・・そうですか」
いつもなら何かしら口答えしそうな結愛と霧響だが、今日は特に何も言い返したりしなかった。
・・・まぁ俺としては初音に不機嫌になられても困るからそれはそれでありがたいんだけど・・・なんか、不気味な感じだな。
「そうそう、そう言うことだから」
が、初音がこんな時にそんなことを気にするわけもなく、邪魔者をあしらうかのような雰囲気を出しながら俺の腕を組み、外に出た。
そして・・・
「そーくん、もう一度言っておくけど、今日は絶対余計なこと言っちゃダメだからね、そーくんに集る女と話す時とは訳が違うんだから」
「わ、わかった・・・」
「それと、私に子種くれなかったこと、帰ったらじっくりお説教だからね」
「は、はい・・・」
俺はそんな二つのことを実家に行く前に言い渡されてしまった。
・・・初音と俺の実家に行くのは初めてって訳じゃないが、今日は重みが違うため少し緊張してしまう。
そんな俺の横で歩く初音の顔は、緊張も多少はあるだろうが、それよりも嬉しさが詰まったような顔だった。
「今日でそーくんと・・・はぁはぁっ」
「・・・・・・」
俺は道中ずっと頬を文字通り桜色に染めている初音のことを気にしながら、足を進め・・・
「着いたな・・・」
ようやく俺の実家がある駅に着いたのは良いとして・・・
「まだ10時過ぎか・・・」
約束の12時まで、あと2時間もある・・・
わかってはいたことだが、やっぱり時間が余りすぎる。
「は、初音、ど、どうするんだ?やっぱり時間が余りまくってる」
「そうだねー、じゃあどこかで一時間半ぐらい時間潰さないとねー」
「そ、そうだな」
ここで俺が「だからこんな早くに来ずに11時前ぐらいから移動すれば良かったんだ」なんて言ったら、きっと初音は少しどころじゃないぐらい怒るだろう。
「んー、そーくん、この辺って近くに時間単位で宿泊できるところあったよね?」
「・・・え?あ、あぁ、た、確かビジネスホテル・・・だったか?」
駅のすぐ近くに駅よりもそっちがメインなんじゃないかと思うほど大きなホテルという名のビルがある。
「んー、じゃあそこで1時間半ぐらい潰そっかー、お土産はもう持ってきてるしねー」
そう言って初音は自分の鞄の中を確認する素振りを見せた。
「え、ちょ、ちょっと待ってくれ、ビジネスホテルになんて止まらなくてもどこか外を適当に歩けば良いんじゃないのか?」
「せっかくのそーくんとの2人きりだし、そうしたいのは山々なんだけど、今日はそーくんのお母様に渡さないといけないお土産も持ってきてるから、万が一にもぶつかったりしたら危ないでしょ?」
「そ、そうか・・・」
・・・いや、別に変なことじゃないんだ。
恋人の親に会いに行くとなった時、その恋人の親の人に対して畏まるのも、お土産を持って行くのも、何もおかしいことはない、むしろすごくできていると言われるだろう。
・・・だが!なんでその優しさ的なものをもっと俺にも分けてくれないんだ!!
俺は心の底からそう思いながら、初音と一緒にホテルの中へと足を踏み入れた。
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