第622話霧響の忘れていたこと

「・・・な、なぁ、霧響・・・?」


「はい!なんですか!?お兄様!!」


 俺はとうとう明日に控えた初音と俺の母親の面会に少し恐怖を覚え、霧響に話しかけていた。


「そ、その・・・か、母さんはどんな感じなんだ?」


「どんな感じ、とは?特段お兄様が転校してからも変わりありませんよ」


「そ、そうか・・・」


「どうしたんですか?いきなりそんなことを聞いて」


「い、いや・・・別に、ちょっと気になっただけだ」


 ・・・本当に明日はどうするべきか。

 もし明日初音の予定調和にことが進めばそれは本当に俺の将来がどうなるか決定するということだ。

 初音とか結愛とかのいざこざではなく、親との決め事という絶対的な後ろ盾は流石にまずい。

 初音と結婚したいかどうかは一旦置いておくとしても、高校2年生半ばの夏に急いで決めるようなことじゃ無いことだけは断言できる。


「・・・あ、嘘をつきました」


「・・・え?う、嘘?」


「正確には嘘ではなく、忘れていたと言う方が正確ですね」


 な、なんなんだ・・・?一体何を言うつもりなんだ。


「そ、それで・・・わ、忘れてたことっていうのは・・・?」


「お母様がお兄様の将来を案じていました、そろそろ恋人の1人でも作って婚約の申し出をして欲しいと」


「えっ・・・」


「お兄様もお兄様ですが、お母様もお母様で、お兄様には私と言うものがあるのですから何も心配なされることはないはずなのですが、なぜでしょうか・・・」


 ・・・まずい、まずいまずいまずい!

 まさか母さんが俺に婚約をして欲しいと思っていたなんて・・・

 確かに初音と付き合ってることは母さんには一度も言ったことがなかったけど、婚約どうこうの話になるぐらいにまで思っていたとは知らなかった・・・

 まぁ実際、母さんと父さんは同年齢で、2人で結婚できる最速年齢、つまり18歳で結婚している。

 だから自分たちと比べると確かに俺が遅いと判断していても無理はない。


「一応「お兄様には私がいるのでご安心ください」と言ったのですが、まだ子供扱いされてるのかまた苦笑いで流されてしまいました」


 それは本当に良かった・・・俺の唯一の救いは俺の母さんが兄妹婚に対して賛成じゃないことぐらいだな。


「ですが!いつかきっとわかってもらえるはずです!生まれた時からずっと同じ場所にいる・・・つまりは一番理解している兄妹という存在と一生を添い遂げることの重要性と大切さを!」


「あ、そ、そうか・・・」


 俺も流すことにしよう。


「何故他人事なのでしょうか、むしろ一番お兄様にわかって欲しいのですが」


「・・・え」


 その後、俺は変に流そうとしたせいで、明日に緊張を抱く余裕なんて無いぐらいに延々と霧響に霧響との一生について語られてしまった。

 明日、俺は本当に大丈夫なのか・・・?

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