第599話浮気か呼吸困難か

「はい、そーくん❤︎」


 初音はそう掛け声をかけると、俺のことをこの拷問器具・・・もとい、寝袋のような最悪な寝具から俺のことを出した。


「ごほっ、ごほっ・・・はぁはぁ、っ、はぁ・・・」


 つ、疲れた・・・本当に死んでしまうかと思った。

 酸素が持つとは言ってもおそらくそれは緊急時に最悪の場合は生きられますよってことで、普通に生活する分には本当に死ねる。

 実際俺もあともうちょっとで酸素不足で死ぬところだった・・・


「うん♪こうしたらそーくんの身も危険に晒されることはないね!」


 酸素不足というものは危険に入らないのでしょうか。


「今日からは毎日こうしとこうねっ!そーくんっ!」


「・・・え?い、いやいや!む、無理だ!無理無理!絶対に無理だ!!」


「え?なんで?」


「い、いや、さ、酸素がなくなりかけてて呼吸困難になるというか・・・」


「でもそれだって浮気させられるよりかはマシだと思わない?」


「・・・え?」


 ここで初音は、サイコパスなんじゃないかと疑ってしまうような発言をする。

 ・・・いや、まぁ今までもサイコパスじゃなかったのかと言われればそれまでだが・・・


「そーくんはちょっと呼吸困難になるのと浮気するのだったらどっちが嫌なの?」


「・・・そ、それは、まぁ・・・う、浮気したと思われるほうが嫌だけど・・・」


「だよね?じゃあちょっとした呼吸困難ぐらい大したことじゃないよね?」


 これはしんどさを訴えかけてもダメだな・・・こうなったら。


「で、でも本当にしんどいんだ、初音も体験してみたらわかる」


「・・・私も?」


 初音は可愛い顔で首を傾けた。その無邪気な顔が逆に怖い。

 ・・・それでも自分も体験すれば、初音だって少しは考えを改めてくれることだろう。


「・・・あっ!それ!いいねっ!」


「・・・え」


 と思ったが、なぜか初音は良いことでも思い付いたのかのように共感してきた。


「じゃあこれと似たようなやつのダブルス版を買ってその中で一緒に寝よっか!」


「・・・え?」


「それでっ!そーくんと一緒の酸素を吸って、一緒に酸素不足になるのっ!」


「え、ちょ、ま、待て待て───────」


「早速注文しようね!」


 そう言うと初音はすぐにノートパソコンを取り出し、あの拷問器具とでも呼べそうな最悪の寝具、しかも2人分を探し始めた。


「・・・これはしばらく集中モードに入りそうだな・・・」


 そう思った俺は、とりあえず部屋から出て洗面所に向かう。


「あっ!先輩っ!」


 洗面所に行くと、先にあゆが顔を洗っていた。

 ・・・顔だけは良いため一瞬少しだけ濡れている髪に心を奪われそうになるが、あゆの本性はサディストだと言うことを脳裏によぎり、すぐに正気に戻る。


「先輩先輩!」


 あゆはいきなり俺の方に近づいてきて、耳元に囁くように言う。


「今日学校行っちゃいませんかぁ?」


「・・・え?」


「だって〜、先輩もう足治ってきてますし〜?体育はできないにしろもう普通に登校はできるレベルじゃないですかぁ〜?」


「うっ・・・」


 俺がここ最近ずっと頭の隅に引っかかっていたことを言われてしまう。


「先輩の制服もちゃんと拝借してきてるので!あと教科書とかも取ってきてるので!ねっ!」


「で、でも初音に黙って行くって言うのも─────」


「白雪先輩にはちゃんと許可取ってますから!」


「・・・え?そ、そうなのか・・・?」


 朝の初音を見る限りそんな感じはしなかったけど・・・


「はいっ!白雪先輩も考えを改めて先輩に学校に行ってもらうことにしたみたいなんですよ〜」


「そ、そうなのか・・・」


 俺の将来のことを初音もわかってくれて、そこはだいぶ嬉しいな。


「わ、わかった、じゃ、じゃあ、行こう・・・」


 俺は脱衣所に向かい制服を着て、すでにあゆが用意してくれていた教科書と鞄を持ってあゆと一緒に学校に向かうことにした。

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