第557話総明の墓穴

「・・・はぁ」


 やっぱり嘘で涙を流すなんてかなり難しいよな・・・

 近くに目薬でもあれば本当に簡単なんだけどな・・・


「先輩、せ〜んぱい❤︎」


「・・・あゆ?」


 あゆが自然に俺の部屋に入ってきた。

 は、初音が戻ってきたらまずい・・・


「は、初音が戻ってきたらまず─────」


「もう朝ですよ〜?なんでまだベッドにいるんですかぁ?」


「・・・ん?」


 そうか、俺は今布団をしてるから俺がベッドに拘束されてることは見えないのか・・・まぁ拘束されてたかったとしても部屋から出たことが初音にバレたら怒られ──────そうだ!あゆに助けを求めれば!


「あゆ!頼む!飲み─────・・・」


 いや、ダメだ。

 助けを求める相手を間違えてはいけない。

 もしあゆに飲み物を取ってきてくれなんて言っても「あ〜!先輩もしかして今動けないんですかぁ〜?仕方ないですね〜♪私の愛の液飲ませてあげますね❤︎」みたいなことになって、それが初音に見つかって怒られるというパターンが見えている。

 だから俺が今拘束されていることはあゆにバレたらだめだ、そして早くこの部屋から出ていってもらわないと・・・


「ちょ、ちょっと体調が悪いんだ、風邪かもしれない、だから今は俺の近くに寄らない方がいい」


 これなら動けない理由と、さらにあゆに部屋から出ていってもらって初音が戻ってきた時のリスクも無くなる。

 ・・・完璧だ。


「えぇ〜!?先輩今体調悪いんですかぁ!?じゃあ今は抵抗力も少なければ大声を上げようにも頭に響くからできるだけ大声も上げたくないってことですよね!?・・・襲えってことですか?」


「なんでそうなるんだ!」


 ダメだ、本当に何を言っても逆効果にしかならない気がしてきた。


「でも〜、私としては目の保養で助かるんですけど〜、なんで裸なんですかぁ?」


 普通はそこを一番最初にツッコミそうなんだけどな・・・


「あ、あー、な、なんか寝てる時に脱げたみたいなんだ」


「・・・じゃあその脱げた服はどこにあるんですかぁ?」


「え、あー、あー、うんー?あー、初音が片付けてくれたのかもしれない」


「なんでここで白雪先輩の名前が出るんですかぁ?」


「・・・・・・」


 しまった・・・


「・・・先輩、何か隠してるよね」


 しかも俺が墓穴を掘った瞬間に敬語をやめる感じも本当に怖い・・・


「べ、別に何も隠してない」


「へぇ〜、そうなんですかぁ・・・じゃあ私とえっちしましょう!逃げたかったら好きに逃げてくださいっ!逃げないなら承諾したとみなしますのでっ!」


 そう言うとあゆはベッドの上に飛び乗ってきた。


「ま、待て待て!」


「だから嫌なら逃げてもいいんですよ〜?足もだいぶ治ってきたんですよね〜?それとも動けない理由でもあるんですかぁ?」


「・・・お、落ち着け!?あゆ!?」


 するとあゆは布団の上から俺に跨ってきた。

 ・・・くっ、万事休すか。


「わ、わかった、実は、その・・・今初音に監禁されてて、足だけ拘束されてるんだ、だから─────」


「え〜っと?」


 俺は言葉を続けようとしたがあゆはそれをもう説明不要とでも言うように、そして、わざとらしく高い声で状況をまとめ始めた。


「今この部屋にいるのは私と先輩で〜、先輩は足を拘束されて動けなくて〜?多分監禁って言うからには食べ物の制限もされてて力も出ない状況・・・あ〜ん❤︎それってもう襲えって言ってるもんじゃ無いですかぁ❤︎」


「言ってないだろ!」


「えぇ〜?じゃあ・・・なんでお顔赤くしてるんですかぁ?」

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