第556話初音の厄時

「・・・はぁはぁ」


 私はそーくんの部屋から出て、キッチンに向かいながら少し興奮が声に出て漏れていた。


「な、何あれ・・・!」


 そーくんのアレも可愛かったけど・・・そーくんの最後の腕!私の腕をギュッて握って・・・きゃあ〜!

 小動物みたいだったなぁ・・・ううん、小動物なんかより何倍も可愛いけど。


「・・・ん」


 キッチンに行くと、図々しくもウイルスが料理をしていた。


「ねぇ、ここ私の家だからウイルスに人権ないのわかってる?」


「虫の家に土足で入り込んでも法律には触れないから別に気にしないよ」


 と、そーくんに集るウイルスの分際で減らず口を叩く。

 私はこんなウイルスなんかに構っている暇はないと、昨日作り置きしておいたご飯を冷蔵庫から─────?


「メモ・・・?」


 何故か作り置きしておいた料理がなくなっていて、空のお皿の上には一枚のメモ用紙があるだけだった。

 そこには・・・


『白雪せんぱ〜い❤︎美味しかったです〜❤︎私の好みで言うともうちょっと薄味の方が良いですけどね〜❤︎❤︎❤︎』


「・・・・・・」


`ビリッ`


 私はその紙くずを破り捨て、ウイルスが使っているキッチンに行く。


「今から料理するからどいて?邪魔」


「今包丁持ってるのは私なんだから発言には気をつけた方がいいよ」


「は?何それ、脅しのつもり?」


「別に」


 もし脅しなんだとしたら温すぎるけど、こんなウイルスのことなんて無視す─────


「あぁっ、肩凝って来たかもー」


 そう言いながらこのウイルスは私に見せつけるようにして自分の胸を揉みほぐしている。

 でも、私はこんなことじゃ動じない。


「へー、可哀想、そんな重りを常時つけてたらそれは肩凝るよねー」


「うんー、虫にはわからない重みだよねー」


「・・・・・・」


 私はこのウイルスの持っている包丁を奪うために手をこのウイルスに近づけるも、このウイルスは生意気にも私の手を弾いた。


「そーちゃんの以外に触られたくないから触らないでくれる?」


「私はその包丁に触ろうとしたの、自意識過剰すぎ」


「じゃあお生憎様だけど、私まだお料理してるから渡さないよ」


「ウイルスにご飯なんているの?」


「違うよ、これはそーちゃんのなの」


 ・・・普段でも霧響ちゃんならともかく他の女の料理なんてそーくんに食べさせたくないけど・・・


「今はそーくんに反省してもらうためにご飯とお飲み物禁止してるからダメだよ」


 私がそう言うと、ウイルスの手が止まりこっちを振り向いた。


「どういうこと!?なんでそんな可哀想なことしてるの!?」


「なんでって・・・私に隠れてレンタル彼女なんてレンタルしたりしてたんだから当たり前でしょ?」


 まぁ、決め手になったのはあの淫乱女に騙されて一緒にお風呂に入ってたことだけど・・・それはいちいちこのウイルスに言わなくてもいいかな。

 それに、私に隠れてレンタル彼女なんてレンタルしてたことも十分許せないし・・・


「あれはそーちゃんが間違えてってことで終わったでしょ?なんでまたそれを掘り起こすの?」


「間違えてなら私に相談してくれれば良かったのに相談してくれなかったってことはちょっとはそーくんの意思があったってことだし」


「だからそれはそーちゃんが優柔不断だからでしょ?仕方ないよ」


 ・・・贅肉に頭のネジが取られちゃってるのかな。

 優柔不断なんていう理由で浮気されるなんて絶対嫌、無理。


「とにかく、そーくんは今監禁中だからご飯なんて渡させないよ?」


「・・・そーちゃんにご飯あげるのにそーちゃんが優しいから許容されてるだけの虫の許可なんていらないから、勝手に言ってていいよ」


「・・・・・・」


 私はこのウイルスを殺すために近くにあった獲物で襲いかかり、このウイルスも抵抗してきて殺し合いが始まった。

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