第482話総明の生着替え

「・・・え、ぬ、脱ぎたて・・・!?」


 俺は結愛には聞こえないように小声で聞き返す。


「はい、そうでないと意味がないと・・・」


「・・・・・・」


 まじかぁ・・・俺の持っている下着じゃなくて俺の`脱ぎたて`じゃないといけないのか・・・毎度ながら俺の彼女には手を焼かされるな。

 そもそもただの下着ですら恥ずかしいのに脱ぎたてを間接的にでも渡すなんて恥ずかしすぎる・・・でも俺と天銀は一蓮托生だ、ここで俺が渡さなければ俺と天銀は共倒れすることになる。

 ・・・正直さっき下着を天銀に渡すのも恥ずかしさを我慢してたんだけど・・・仕方ない。


「ゆ、結愛、一瞬だけ部屋から出て欲しい」


「一瞬って、どのくらい?」


「5分ぐらいでいい」


「・・・わかった」


 結愛は大人しく俺の部屋から出ていった。やっぱりこういう風に空気を読んでくれるのはありがたい。

 まぁ、この話の内容を知っていれば嫌でもこの部屋に残って俺が下着を渡すのを阻止しに入ったかもしれないけどな・・・


「じゃ、じゃあ、天銀、あっち向いててくれ」


「あっ、は、はい・・・!」


 天銀は焦ったような様子で俺の反対方向を向いた。

 俺はクローゼットから自分の下着を取り出してからズボンを脱いだ────が・・・いくら反対を向いていて俺のことが見えてないからとはいえ同級生の女子の後ろで下半身を露出するというのはかなり変態じゃないか?

 いや、正式な理由があったとしても、の話だ。

 とはいえここで天銀に出て行ってもらうのも結愛からしたら不自然か・・・仕方ない。


「天銀、絶対に後ろ見るなよ!」


「も、ももも、もちろんです」


 天銀も状況がわかっていたのか、声が吃っている。


「・・・手鏡とかもなしだからな?」


「は、はい・・・」


 この前は確か体育の着替えの時に反射で俺の着替えを見られてたからな・・・

 俺は念のために天銀に目を瞑ってもらって、電気を切ったのち、下着を脱いだ。


「最王子くん、その、今・・・」


「・・・・・・」


「な、なんでもないです・・・///」


 声だけで天銀が何を言いたいのかわかった俺は、女子の後ろで下半身を露出して悦ぶ趣味はないのでさっさと替えの下着を着てから、ズボンを履いた。

 そして電気を付ける。


「天銀、着替え終わったからもう目を開けても大丈夫だ」


「・・・最王子くん」


「ん?」


 天銀はゆっくりと赤面した顔をこちらに覗かせると、初々しく言った。


「さ、さっき、そこで、その・・・下半身を露出していたんですよね?」


「そ、そうだけど・・・仕方ないだろ?」


「・・・そうですね///」


 天銀は何かを思い描くかのように顔を上に向けているが、瞬時に切り替えて言った。


「では最王子くん、下着をください」


「・・・ああ」


 俺はこんな状況世界中のどこを探してもないだろうなと思いながら、天銀に脱ぎたての下着を渡した。


「・・・温かいですね」


「生々しいことを言うな!」


 天銀は俺の下着を手に、俺の部屋から出て行った。

 ・・・全く、初音は天銀のことを男子だと思ってるからこんな風に使ってるんだろうけど実際は女子であることを知っている俺からしたら本当に恥ずかしさの極みだ・・・

 彼女でもない女子の後ろで生着替えを後ろでさせられた挙句脱ぎたての下着を渡さないといけないなんて・・・


「はぁ・・・」


 俺は疲れを全て含んだ溜息をしてから、またも意味もなくトランプを弄り始めた。

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