第330話妖艶な後輩
「そーくん、松葉杖だと動きにくくない?」
「えっ、ま、まあ・・・」
松葉杖なんて今までの人生で一度も使ったことがなかったから扱いづらいのは事実だ。
「それでね?ちょっと考えたんだけど・・・じゃじゃ〜ん♪」
そう言って初音は俺の前に車椅子を出した。
「片足だけなら松葉杖で良いと思うんだけど、やっぱり両足怪我してるといくら右足は軽傷だからって捻挫は捻挫だし大変でしょ?」
流石初音だ、よくわかってくれている。
「うん」
「だから私が車椅子引いてあげようと思って」
「ああ、それは助かる」
これで移動もだいぶ楽になる。まあ家の中で移動することってあんまりないんだけど・・・
「で、今日はちょっとお出かけしたいんだけどいいかな?」
「お出かけ・・・?良いけどどこに?」
「前にちょっとだけリビングの家具買ったけど全然だから一回全部改めてちゃんと選び直そうと思うの」
確かに、前に実はちょっとだけリビングの家具を買ったけど中途半端な感じも否めない。でも、それにしたって・・・
「お、お金の問題とか────」
「そーくんはそんなの気にしなくても良いって何回口を酸っぱくして言ったらいいの?」
そう言われてもな・・・実際にお金を払ってもらってるんだし申し訳ない。
「そういうことだから、ちょっと近くのデパートでもどこでも良いけど家具買いに行かない?」
「ま、まあそういうことなら・・・」
そして俺は初音に差し出された車椅子に有り難く座り、初音は色々と入っている鞄を持って俺の車椅子を引いたまま、家の外に出た。
「なんか一心同体って感じだね♪」
「う、うん・・・」
なんとも変な気分だ。自分では足を動かしてないのに勝手に進む・・・かといって車みたいに特段速いわけでもない。
「あ、せぇんぱぁい!」
「・・・・・・」
エレベーターからエントランスに降りたときに、エントランスの中にそんな艶のある声が響いた。誰を呼んでるのか知らないけどもうちょっと声量というものを考えてほしいな。
俺と初音はそのままエントランスの外に出ようとした───が、ここで思いもよらぬ事態が発生する。
「ちょっと待ってくださいよ先輩!なんで無視するんですか〜!」
「・・・え、俺?」
明らかに俺たちの方にかけられている声だったので振り返ると、そこには何かとあの街中から次いで点々と会っているツインテールの・・・街でメイド服を着ていた人だ。もちろん今はメイド服じゃなくて普通に女の子らしい服を着ている。それにしても本当に容姿が整ってるな・・・初音と並ぶレベルだ。
・・・俺はこの子に先輩と呼ばれる筋合いはないはずなんだけど・・・
「はいっ♪」
「俺は君に先輩なんて呼ばれる理由がわからないんだけど・・・」
「あれ、知らなかったんですか〜?私も同じ高校ですよ?」
「・・・えっ、そ、そうだったのか・・・」
学校では全く会ったことないけど・・・まあ無理もないか。後輩ってことは一年生なんだろうけど一年生のところに行く用事なんてそうそうないし、俺に関して言えば同級生ですら初音によって制限されてるからな・・・
「はい、だからそこにいる白雪先輩がバイト禁止とか言い出してやることがなくなっちゃったのでこうしてずっとここで先輩のこと待ってたんですよ〜!」
もし同じマンションに住んでなかったら今頃不審者扱いで警察行きだな・・・
「何この女」
「先に言っとくけど浮気じゃないからな」
俺は釘を打っておく。
「浮気?え〜、お二人って付き合ってるんですか?」
「付き合ってるなんて低俗的な考えやめてくれる?それ以上だから」
「・・・ふ〜ん、そうですか」
少しの間場に沈黙が流れた。
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