第327話不機嫌な初音

 当然その翌日も俺の怪我のことなんてお構いなしに林間学校は続くも、俺は保健室で待機することを命じられてしまい、翌日は夜這いに来た初音と結愛をなんとかやり過ごしたぐらいで特に何もなかった。


「・・・何かありすぎるだろ」


 夜這いに来たことを特に何もなかったで済ませるあたり俺は足よりも精神面の方が重症なのかもしれない。

 結局林間学校は怪我のせいで特に何もできないまま終わりを迎えた。帰りのバスも行きのバス同様乗り物酔いに苦戦を強いられることにはなったが、不幸中の幸いなのか、足の痛みに集中することによってなんとか堪えることができた。

 そして家に帰ると・・・


「あ〜、イライラする」


 初音はかなりの不機嫌になっていた。


「結局何もできなかったし・・・」


 どうやら初音はこの林間学校の間に、本気で俺と何かをするつもりだったらしい。その何かがなんなのかわ知らないけど俺にとって両手をあげて喜べるようなものじゃないのは確かなためここは怪我の功名ということにしておこう。

 とはいえこのまま初音が不機嫌なままなのも嫌だしまずはなんでそんなに不機嫌なのかを聞いてみよう。


「さっきから不機嫌だけどどうしたん────」


「さつき?さつきって誰?浮気相手?」


 ここで初音はいきなり意味のわからないことを口にする。


「さ、さつき?いきなり何を言ってるんだ?」


 俺はそのことを不思議に思い初音に聞いてみた。もし幻聴が聞こえるぐらいに精神的に不安定なら何かしらしないといけないと思ったからだ。

 が、初音は余計に不機嫌になってしまった・・・


「は?そーくんが今さつきって言ったんでしょ?もしかして無意識の内に浮気相手の名前出したの?さつき不機嫌って何?」


「さつき・・・不機嫌・・・?」


 そんなことを言った覚えが全くない俺は、何をどう間違えたらそうなるのかと思い、一応記憶を掘り起こしてみると、もしかしたら聞き間違えてもおかしくないというものがあった。


「さつきじゃなくてさっきじゃないか?」


「何それ、言い訳?」


 確信した。多分さっき俺が「さっきから不機嫌だけどどうしたんだ?」っていかけた時の言葉を変に勘違いしてしまったみたいだ。


「いやいや、そうじゃなくて、さっきから不機嫌みたいだけどどうしたのかって聞こうと思っただけで、俺はさつきなんて一言も口にしてない」


「・・・はあ、まあいいけどさ、今機嫌悪いから話しかけないでくれる?」


 ・・・本当に機嫌が悪いみたいだ。今まで機嫌が悪そうな時をあっても俺のことを邪険にすることはあんまりなかった。・・・いや、でもこれが普通の恋愛というものだ。不機嫌なときはちょっと距離をとって相手の気持ちを考えたりしてヤキモキして・・・そういう意味では普通の恋愛に近づいてきてるんじゃないのか!?


「よしっ・・・!」


 俺は初音が少しでも常人に近づいて行っているという事実を知り、喜びの声が喉を通って出た。・・・出てしまった。


「何喜んでるの?私が機嫌悪いのがそんなに嬉しい?」


「あ、いや、違う・・・ごめんなさい」


「・・・そーくん最近ちょっと私のこと舐めてるよね」


 ここで俺は八つ当たりと言わんばかりに初音にターゲットにされてしまう。


「・・・舐めてない、です」


 置き土産程度に添えておいた敬語は逆効果だったらしい。


「何その敬語、私が敬語使ったら多少は何をしても許すと思ってるの?」


「そんなつもりは・・・」


「・・・両腕後ろにして」


「・・・え?」


「いいから、早く」


 そう急かされてしまっては俺も逆らえる術を持ち合わせていないので大人しくてを後ろにする。すると初音は、俺の両手首に手錠をかけた。


「は、は!?」


「これで足も満足に動かせないんだから、私にお願いしないともそこから動けないよね」


 なんて鬼の所業なんだ・・・松葉杖を使おうにも手を使えないんじゃ移動できないし足だけで移動なんて当然痛みの問題もあるし今は純粋に立てるような状態じゃない。


「・・・はあ」


 それにしても初音がこんなに機嫌が悪くなるなんて・・・本当に何かあるのかも知れない。

 俺はその理由を聞こうとしようか迷ったが、さっきのことを思い出してやめておくことにした。

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