第290話総明の下着事件

「ただいまー」


 今日もいつも通り初音と一緒に学校から帰ってきた。いつも通りの日常とは素晴らしいものだ。・・・だいぶ感覚が麻痺しているだけかも知れないけど。


「・・・あれ?」


 いつもならすぐにあるはずの霧響の出迎えがない。出迎えがないことにあれこれ言うのもなんか図々しいけど何気にこんなことは霧響がこっちに来てから初めてだ。


「霧響ちゃんいないのかな?」


 まあ霧響も出かけることぐらいはあるか・・・俺はちょっとさっぱりしようと思って洗面所に向かった。が────


「き、霧響!?な、何してるんだ!?」


「お、お兄様!?」


 洗面所に向かうと、そこには大量の洗濯物が入った洗濯籠の前で、明らかに俺の下着だと思われるものを顔の前に持っていた。


「・・・な、何してるんだ?霧響・・・」


「い、いやですね、お兄様、今ちょうどこれを手に取って洗濯籠に入れるところだったんですよ・・・」


 それはさすがに難しいものがあるだろ。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「自分で洗濯するからそれ全部俺に渡せー!!!」


「嫌です!私が洗濯するのでお兄様はどっか行ってください!!!」


 俺と霧響は洗濯籠と俺の下着攻防戦に入った。こんなくらだらない攻防戦はきっと世界規模で見ても稀だろう。洗濯籠に入っているありとあらゆる洗濯物が床に散らばった。それはもう本当にタオルから下着まで本当に色々と床に散らばったけど、俺と霧響は、もはやそんなことに目も暮れず空になった洗濯籠を攻防していた。


「早く渡せ!!!!」


「嫌です!私がお兄様の下着を嗅ぐため───洗濯するんです!」


「今────」


 俺が霧響を問い詰めようとした時、さらに今度は初音が洗面所に顔を覗かせた。


「そーくん、どうしたの?こんなに騒いで──え?」


 初音は一瞬沈黙した。確かに冷静に俯瞰して考えればかなりおかしな状況だ。霧響もそのことに気づいたらしくはっとなっていた。


「何これ、どういうこと?そーくんが私の下着を盗んだり嗅いでくれようとしたってことなら良いんだけど、むしろ大歓迎なんだけどそんな空気でもないよね?」


 大歓迎したらだめだろ。


「ちょ、ちょっと色々あって・・・さ、騒いで悪かった」


 すると初音は霧響が手に持っていたものに気づいた。それは洗濯籠、ではなく────


「霧響ちゃん、それそーくんの下着だよね?」


「えっ、ああ、はい・・・」


「・・・もしかして、嗅いでたの?」


「・・・・・・」


「やっぱり、私も洗濯するときは絶対に嗅ぐようにしてるから気持ちは分かるけど、正式に恋人でもない妹の霧響ちゃんがそんなことしたらただの変態さんだよ?」


 絶対に嗅ぐ!?嘘だろ!?そういえばそんな節あった気がするな・・・っていうか何が正式な恋人でもないからだ、正式な恋人でも十分変態的扱いになる。


「・・・はい」


 妹扱いされた霧響も、今回は自分に非があると認めているためか特に何も言わなかった。


「お兄様の下着の魅力がありすぎてつい・・・」


「霧響ちゃん・・・」


 初音はしゃがみこむ霧響に対し同じ目線の高さで言った。


「わかる」


 わかるじゃないだろ!これからもこの2人がこの家の洗濯をするのかと思うとゾッとするな・・・まあでも今回の件で反省しただろう。

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