第76話初音と月愛の駆け引きとその果てに・・・

 っていうかそーくんが応援してくれてる嬉しさで忘れてたけどこの女よくもそーくんを・・・徹底的に打ちのめしてそーくんと‘二人‘で優勝する。


 そう、1対1となればきっとそーくんを蘇生できるほどの隙はできない。つまり、そーくんの蘇生タイムミリットまでにはこの女を倒して二人とも生きている状態で優勝する。


 それが絶対条件。私は日頃の感情も込めてーーーー




『死んで!』




『あなたが死んでみては?』




『二人とも、これゲームだからな?しかもなんかゲームなのに妙に現実感があるものを感じるというかーーーー』




『そーくんは黙ってて』 『最王子君は黙ってて』




『・・・はい』




 私とこの女が黙っててと言うと、そーくんはおとなしく黙った。




『・・・最悪』




 よりのもよってこの女と同時に、しかも同じ言葉をそーくんに発してしまうなんて・・・


 さっきまでいい気分だったのに一気にテンションが落ちる。これもすべてこの女のせいだ。




『・・・死ね!死ね!』




『小学生のような言い回しだけれど死ねという方が死ぬのよ?』




 なんていう意味の分からないことを言っているこの女を私はだいぶ追い詰めた。私も多少ダメージを負っているけど、このぐらいなら大丈夫。




『これで終わりーー』




『動かないで』




 そういうとこの女はダウンしているそーくんの隣まで近づき手榴弾を手にした。




『な、何をーー』




『私は今から最王子君とともに自爆する』




『なっ・・・』




 こ、この女・・・!




『チーム的にはあなたと最王子君の勝利になるんだしいいでしょ?でもその代わり最王子君はいない状態で、しかも私と同時に最王子君が死ぬけど・・・まあ、二人で仲良く天国で生活するから、白雪さんも応援よろしくね?』




『・・・・・・』




 そーくんとこの女が心中?二人で?そんなこと許されるわけがない。しかも応援してって?そんなこと言いわけがない。




『そんなの許すわけないでしょ!?そーくんが死ぬときは私がそーくんを殺して私も死ぬんだから!』




『お、おい、そ、それはゲームの話だよな?現実の話じゃないよな?』




『え、もちろん現実だけど』




『えっ・・・?』




 と、なぜか震えた声を出しながらそーくんは驚いたような声で言う。そんなに嬉しかったのかな?まあ、今はそんな普通の話よりもそーくんが人質に取られていることについてどうするか考えないと。私だけ生き残って優勝しても意味がない。


 しかもそれがそーくんとこの女が心中して成り立つ優勝なんて・・・絶対に意味がない。


 私は頭をフル回転し、どうやったらこの女の気を逸らせるかを考えた結果、すぐにパソコンを開いた。検索内容はもちろんーーーー




『ねえ、あなたそういえば新作のラノベ読んだ?』




『えっ、どうして白雪さんがラノベの話を・・・?』




『実は私ラノベ大好きなんだー、そーくんに教えてもらってからね?』




『そうだったのね』




 もちろん嘘だ。恋愛ゲームはそーくんの勉強になるので良かったけどラノベなんて言うものはそーくんにとっては毒でしかない。浮気を引き起こす最悪の毒だ。


 でも、癪だけど今は話を合わせるしかない。




『う、嘘つけ!俺のラノベをあんな風にーーーー』




『何か言った?』




『いやっ、だから俺のラノベをあんなーーーー』




『何?』




『な、なんでもないです』




 私がちょっと怒ると物分かりよくなるのがそーくんの良いところだ。まあ、私がそういう風に躾・・・っていうか仕向けたんだけど。怒った状態でもし何かを反論すれば嫌なことをされるっていう思い込みがそーくんの無意識下にあるからそーくんは基本的には私に反抗してこない。




『へえ、じゃあ白雪さんはどういうラノベが好きなの?』




『それはーーーー』




 人間、誰しも好奇心には弱い。好奇心を持っている時が一番盲目になる。


 私だってそう。恋は盲目、なんていうけどまさにその通りだと思う。それでも私はできる限り盲目にならないようにしてきた。




『死んで!』




 私はこの女の気が緩んだ一瞬にスナイパーライフルで頭を打ち抜いた。




『えっ・・・』




 もう死んだからあの女の声は聞えないけどそーくんの声だけは聞えた。そして、私たちは優勝した。YOUVICTORYの文字とともに。




『やったね!そーくんっ!』




『あ、ああ・・・は、初音のおかげだ』




『ううん、そんなことないよ♥』




 私はダウンしているそーくんを抱きかかえながら言う。・・・ああ、身動きが取れないそーくんと私しか今この世界にいない。本当にそんな世界になればいいのに。


 そんな夢物語を胸に、私とそーくんはゲーム機の電源を切った。



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