第69話依存ではなく恋心

 初音が作ったであろう鍋を初音が両手でそっと俺の部屋のテーブルの上に置いた。とりあえず早いところご飯を食べて今はできる限り初音を避けよう。




「そーくん」




「ん?」




 初音がお箸の手を止めて話しかけてきた。内容は大体予想できるけど、どう答えたものか・・・




「なんか私のこと避けてない?」




「そ、そんなことないけど・・・」




 やっぱりその事か・・・だが俺は初音がそのことについて聞いたてきたとき用にいくつかの選択肢を用意している。




「じゃあ、これは何?」




 そういうと、初音はスマホを取り出した。今回ばかりは俺のどんな黒歴史を持ち出されても絶対に引くことはできない。・・・いや、引いていいわけがない。




「『だとしたら、やっぱり別れるべきだな』」




「・・・え?」




 今の俺の声・・・?っていうかさっきの俺の言葉?




「避けてないっていうんだったらこの言葉の意味を説明してもらえる?」




「いや、それは・・・」




 ど、どうする・・・こんな決定的証拠を持ってるなんて思ってなかった。と、とりあえず話題を逸らさないと。




「それより、なんで初音が俺の部屋の俺の発言を録音できるんだ?」




「いや、話題逸らさないで?」




 バ、バレてる・・・でもここはごり押すしかない。




「盗聴なんてよくないと思ーーーー」




「話逸らさないでって言ってるよね?」




「えっ・・・」




 なんかもう怒り通り越してやばい感じになってる。ピエン超えてパオン的な?




「避けてないならこの言葉の真意は何なの?」




「いや、だから、それはー、その・・・」




 お、押されてる、いや、でもここでちゃんと話して初音にそれは恋心じゃなくてただの依存だと教えた方が良いのかもしれない。そうすればお互いのためになるって先生も言ってたし・・・




「その・・・初音は、俺のことが好きなんじゃなくて、ただただ依存してるだけーーーー」




パチン!




「えっ・・・」




 右頬にじんわりと痛みを感じる。というより初音に叩かれた。




「そんなわけないでしょ?そーくんはバカなの?」




「は、は?バカって・・・」




「バカだからバカって言ったの、それとも言語理解が追い付かないほど脳が衰退してるの?だとしたら急いで病院に行かないとね?」




 ・・・こ、こんなに初音に罵倒されたのは初めてだ。




「ただの依存なわけないでしょ?ただの依存なら告白なんてしないし、そもそも依存ならこんなに厳重に浮気を疑うわけないでしょ?」




「た、確かに・・・」




 そういうと初音は俺の方に寄って来た。・・・さ、刺される?いや、まあ当然の報いか。恋心と依存なんて言うものを間違えるなんてーー




ギュっ




「えっ・・・」




 初音が俺のことを抱きしめてきた。




「そんなことで避けないでよ・・・」




「・・・ごめん」




 今にも泣き入りそうな初音の声に、俺は謝ることしかできなかった。


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