第215話 防御不可能侵食攻撃

「今夜は、ずっと一緒にいなさいよね!」


 彼女の鋭い目が光り、美しく形良いくちびるから少しだけ甘えた言葉が出た。


 もう説明するまでもないが、渚の狂気さえ帯びたように感じる魔眼のような瞳から、凄まじい威圧感が放出されるのだ。

 春近は、その瞳が好きだった。

 他の人には恐怖を感じさせ平伏させてしまうものだが、春近には睨まれれば睨まれるほど癖になるような美しく幻想的な瞳に思える。



 海に遊びに行っていたメンバーが戻って来たのだが、春近と他の彼女たちが仲良く添い寝していたのを見て渚が嫉妬してしまったのだ。

 もう夜が待ちきれなくなって、早々に夕食と入浴と済ませて寝室に連れ込まれてしまう。


「もっと、あたしに優しくしなさいよね!」


 春近に掴みかかった渚が言う。


「ええーっと、渚様には優しくているはずですよ」

「もっとよ! もっと!」


 少し拗ねている渚に、春近が慰めるように接している。

 ちょっと子供みたいだなと思った。


「はいはい、我儘な女王様ですね」

「もうっ……春近が……そのままのあたしが好きだって……」

「ぷっ、ふふっ、渚様が可愛い……」

「笑うな!」


 渚は、顔を赤くして春近を睨む。

 出会った頃と比べて、信じられないほど可愛くなってしまった。

 これが、恋する乙女というものなのだろうか――――




 そして、もう一人――――

 己の心の中の葛藤かっとうに迷う女が……。


「ぐぬぬ……思いっ切りハルちゃんに甘えてしまいたい……。ただでさえ二人っきりになる時間が少ないのに、一晩一緒に寝るだなんて甘美なお誘いに抗うことなど不可能に近い。しかし、他の子の前で醜態を曝すわけにもいなかい……。ぐぐぐぐぐっ、私は一体どうしたら良いんだ!」


 いつものようにぶつぶつと独り言を呟いている和沙だ。


 結構周囲に内容が漏れてしまっているのだが、他の子も敢えて聞いていないフリをしてあげていた。

 そもそも、和沙が春近と二人の時に甘えまくっているのはバレバレであり、上手く隠せていると思っているのは本人だけなのだから。


 隙あらば『だっこだっこぉ♡ だっこちぃてぇ~』などと春近に迫っているのを見せつけられ、その都度変な空気になるのを必死に堪え見ていないフリをするのもそろそろ限界だと感じ始めている。


 そんな中、見るに見かねた咲がツッコんであげた。


「おい、和沙が赤ちゃん言葉みたいなやつでハルに絡んでるのはとっくにバレてるからな。もうそろそろ隠そうとするのは止めて好きにやってもいいぞ」


 咲の言葉に、和沙は耳まで真っ赤にして反論する。


「は? はああーっ! にゃんのことだか分からない、じゃ、じゃない、かあ!」

「いや、言えてねーし。動揺し過ぎだって。全部バレてるんだから隠す必要ねーって」

「ぐっはぁぁっあっ! 一生の不覚! あんな恥ずかしい姿を見られていたとは……」


 和沙が頭を抱えて恥ずかしがる。

 確かに、あんなバカみたいなことをしまくっているのを、誰かに見られているのは恥ずかし過ぎるだろう。


「いや、大丈夫だって。みんなハルと二人っきりの時は、似たようなコトしてるし。気にすんなって」


 ポンポン!

 咲が和沙の肩をポンポンする。


「そういうもんなのか……いや、待てよ……。そ、そういえば、咲も所かまわず完全にバカップルみたいな恥ずかしい行為をしまくっていた気がするぞ。あれは恥ずかし過ぎる」


「う、うっせえよ! アタシのことはどうでも良いんだよ!」


 確かに咲もスイッチがは入ると人前であろうとなかろうとイチャイチャしまくっていた。

 人は恋をすると、結構バカなことをしがちなのである。


「うん、そうだな。咲のバカ丸出しなイチャつきぶりを見たら、自分の方がマトモだと思えてきたかも」

「てめーなに言ってんだ! あ、あ、アタシの方がマトモに決まってんだろ!」


「どっちもどっちです」


 二人の不毛な会話に、アリスがツッコみを入れた。




 そして今夜の添い寝イベントだが――――


 因みにポジションは、渚が右隣、和沙が左隣、上が咲になった。

 昼間に添い寝したアリスと杏子と一二三は、遠慮して春近の隣を譲ったのだ。


 ただ、譲る気の無い女が一人。


「旦那様! わたくしの入るスペースがありませんわよ」


 栞子である。


「栞子さん、ちょっと狭いけど我慢してよ」

「もう、わたくしに構ってくれないと、旦那様の脱ぎたてパンツをクンカクンカしちゃいますから」

「わああああっ! ちょっと、それはやめろ! 何かイヤ過ぎる」


 自分の使用済みパンツを目の前で嗅がれるという羞恥プレイには耐えられず、春近は少しスペースを空けて栞子を入れた。




「もう、大人しく寝ましょうよ。さすがに二日連続はキツいって」

「春近、あたしたちが大人しく寝ると思う?」


 渚が心底嬉しそうな表情で言う。

 相変わらず威圧感を出しながらも、これから始まる時間が楽しくて楽しくてたまらないような顔をしている。



 春近は考える――――


 いや、待てよ!

 昨日の強力なメンバーと比べると、今夜の方がぎょしやすい気がするぞ!

 渚様さえ満足させてしまえば、後は大人しい子が多いから何とかなりそうだ。

 昼間だって静かに眠れたし。

 ふふっ、これは勝ったでござるなガハハッ!


 等と、甘い事を考えているのだが、後に自分の考えが間違っていたのを思い知るのだった。



「春近ぁ♡ はむっ♡ ちゅっ……ちゅぱっ♡」


 渚の激しいキスの嵐が始まる。

 何度しても同じように彼女の甘い毒のようなものが流れ込む気がして、心もカラダも彼女に心酔してしまいそうになる。

 彼女が生まれながらに持った絶対女王の資質なのかスキルなのか、防御不可能なレベルの性愛侵食攻撃のようなキスだ。鬼神王となった春近でさえ完全防御は不可能だった。


 彼女の瞳で射すくめられ、貪られるようなキスをされた時点で、春近は彼女の虜にされてしまっているのだから。


 ぐううっ、ダメだ――

 全く抵抗できない!

 最近は渚様が弱気になったり可愛くなって油断していたのか……

 途轍とてつもなく強い! 渚様、強すぎる!


 春近は完全に見誤っていた。


 鬼神王になったから勝てるとか勝てないとかの問題ではない。渚のそれは、防御不可能侵食愛情表現なのだから。


「ふふふふっ、春近! あんた、昨夜は天音と朝までお楽しみだったそうじゃない。海で散々のろけ話を聞かされたわよ。このあたしが、そんなのを許すと思う?」


「えっ、ええっ、えええええっ! し、しまった! 渚様が嫉妬していたのは、添い寝していたアリスたちにじゃなかったのか! 昨夜のことを天音さんから聞かされて妬いていたのかぁああああ!」


 春近が気付いた時には遅かった。

 もう、渚の毒が全身に回ったかの如く、自由は奪われ心身ともに彼女に屈服させられてしまう。


「躾けのなっていない愛奴隷に、誰があんたの主なのか教えてあげるわよ! ふふっ♡」

「ぐわあああーっ!」

「ぐちゅ♡ ちゅっぱ♡ ほらほら、もっともっとキスで躾けるわよ♡」

「んんんん~~~~っ!」


 体中に強烈な快感の波が押し寄せ、まるで全身が性感帯のように敏感になってしまう。

 美味しそうにキスをしたり舌を絡めたりする渚の行為だけで、限界突破して昇天させられそうなのだ。


「おい、渚ばっかキスしてズルいだろ! あ、アタシにもしろよ♡」

「そうだぞ、ハルちゃん。私もキスして欲しいぞ。んっ、とびきり熱々なのをな♡」


 咲と和沙が御立腹気味だ。


「そうだ、こっちにキスしちゃおーっと」


 咲が春近の胸板をキスし始めた。若干ペロペロしているが。


「ちゅ♡ ちゅっ、ちゅぱっ♡ ぺろ、ぺろ、ちゅちゅっ♡」

「ちょ、ちょっと待って、咲! ダメだって!」

「何だよ。キスはOKって聞いたぞ。どこにキスするかは自由だよな」

「くぅぅぅぅぅ~」


 思ったより春近の反応が良くて、ノリノリになった咲が激しく舐め回してくる。


「べろっ♡ べろっ♡ ちゅぱっ♡ ちゅ~っ! ぺろぺろぺろ♡」


 咲の行為を見た和沙が本気を出す。


「は、ハルちゃん♡ キスはOKだったのか」


 当然のように和沙もペロペロし出す。


「んっ♡ ぺろっ♡ んぁ♡ ハルちゃん、しゅきぃ♡」



 いつの間にか、一二三や杏子までさり気なく参加していた。


「……キスならOKなシステム……ちょっとだけ……」

「御主人様、私もキスで御奉仕させて頂きます!」


 そして、問題ヒロインがキスを曲解するまで時間はかからなかった。


「旦那様! キスはOKということですと、あそこへのキスもアリということですわね!」


 ヤンデレっぽい目になった栞子が、春近のあそこをロックオンする。


「ナシに決まってるでしょ! 栞子さん! それはもうキスじゃないからぁああ!」


 栞子が、さり気なくエッチをしようとするので止めた。


「ハ、ハルチカ……もう……わたしも我慢できないみたいです……」


 皆の熱気ににてられたアリスまで、小さなお口で『はむはむ』としてきた。

 ギリギリあそこには掛かっていないものの、かなり危険なラインを攻めている。


「ぐあああああっ! しゅ、しゅごいぃぃぃぃぃーっ!」


 主人公なのにヒロインっぽい声を上げて、エチエチな夜は過ぎて行く。

 あまり激しい声を上げている為に、隣の部屋の他の彼女たちまで眠れないくらいだ。

 前日の当て付けとばかりに激しく愛する渚たちに、更に他の彼女の欲求が高まってしまうという相乗効果を起こしてしまっていた。


 一つだけ春近が思い知ったのは、最近はベタ惚れで可愛くなった渚だが、彼女だけは怒らせてはいけないということだった。

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