第207話 かけがえのない存在
海で水着が流されるというラブコメに欠かせないド定番イベント(?)を勃発させてしまう咲。もう、不遇なのか優遇されているのか分からなくなった彼女だが、ドキドキエチエチな強制イベントに突入だっ!
水着が流された咲が春近の背中に密着する。周囲の人から見られないように。
「ハル……」
「大丈夫だよ咲。俺に掴まっててね」
「う、うん……」
恥ずかしそうな顔で頷く咲に、春近の庇護欲のようなものが急上昇した。
咲の裸は誰にも見せないぜ!
守って見せる!
ぴとっ――――
背中の咲が春近の背中に体を押し当てる。
うっ、背中に咲の胸の感触が――
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
早く咲の水着を探さないと。
まだ、遠くまでは流されていないはずだ。
周囲を見回すと海に浮いて波にさらわれているビキニのトップスが見えた。
「あった! きっとあれだ」
「ホントか? 良かったー」
「マズい、結構潮の流れが速いな。どんどん離されて行く」
「ハル……」
咲が不安そうな顔をしている。
「大丈夫、オレに任せて」
咲の悲しい顔は見たくない。
いつも笑っていて欲しいから。
でも……
オレ、水泳は苦手なんだよな。
肝心なことを忘れていた春近だが、自分が何者なのかを思い出した。
そうだっ!
水泳や運動が苦手とかどうでも良かった。オレは十二の鬼神の力を取り込んだ鬼神王じゃないか。
いまいち実感が無かったけど、今なら鬼神の力を使えるはずだぞ。
そうだ、和沙ちゃんの水を操る力を使えば何とかなるかも。
「よし、満彦……いや、
春近が自らの体内に解け込んだ和沙の力を行使する。
「十二天将青龍、大天狗和沙ちゃんの力を……」
そう念じると周囲に水流が発生し渦を巻く。春近たちを水着の方向へと動かしてゆく。
「あと少し……」
満彦と戦った時には恐るべき力を発揮した春近だが、今は慎重に呪力のコントロールを行っている。
水着を掴もうとすると波にさらわれてしまい、なかなか触る事ことができない。
「あと、ちょっと……よしっ! ゲットした!」
「やったぁ、ありがと、ハル♡」
「すごいよハル、もう呪力が自由に使えるんだ」
「そ、それほどでも。ははっ」
大喜びした咲が前から抱きつき、大事な部分が見えてしまう。
「あっ、えっと……」
「ううっ、見た?」
「み、見てない見てない」
かぁぁぁぁ――
「えっと、皆のところからだいぶ離れちゃったね」
「うん……」
「あの岩陰で隠れて着けようか」
「そ、そうだね」
ちょうどビーチから陰になりそうな岩の裏に回った。
シュルシュル――
「ハルが可愛いって言ってくれた水着だから……絶対無くしたくないって思ったんだ……ありがと」
咲が水着を直しながら話しかける。
「ハルが助けてくれて嬉しいよ。やっぱりハルは頼りになるよな。お、王子様♡……なんちゃって」
「べ、べつに、当然のことをしただけだよ。それに、咲の裸を他の男に見せたくないし」
「うへへっ♡ まったくハルったら。でも……もしかして、
「えええっ、お、思ってないから。(むしろ巨乳の方が外れそうなイメージだよ)」
「だって……ハルは大きい胸が好きみたいだし……」
また咲が胸のことを――
もう、ここはハッキリ言っておいた方が良いかな。
前のTさんの貧乳論は逆効果だったみたいだし。
もう、余計なことは言わず、オレの本音をぶつけるしかない!
「咲、確かに他人が羨ましいという気持ちは分かるよ。オレだって人と比べて、自分は……なんて思うことだってある」
「えっ、ハル?」
「でも、どっちが上とか下とか、誰が一番とかじゃないんだよ。皆それぞれが、かけがえのない存在で誰もが大切な人間なんだよ!」
「ええっ……そんなマジメな話に……」
「オレが好きになった咲は、今の等身大のそのままの咲なんだよ! 胸の大きさが変わったからって気持ちが変わるようなことじゃない! ありのままの咲が、とても大切で……かけがえのない存在なんだ! そのままの咲が大好きなんだ!」
「ひゃ、ひゃい……」
春近が真面目な顔をして力説すると、咲も春近の顔を熱い瞳で見つめる。
もう咲の心の中は春近でいっぱいだ。
ハル――
そんな深刻な話じゃなく、ホントはハルに構って欲しくて言ってただけなのに。でも、嬉しい……そんなに真剣に思っていてくれたなんて……
かけがえのない存在……
大切な人……
大好き……
う、ううっ……照れる……
「え、えへへっ♡ も、もう、しょうがねぇなあ。ハルってホントにアタシのコト好き過ぎだろ。しょうがねえから機嫌直してやんよ♡ ふふっ♡」
「咲……良かった」
咲が春近の腕に抱きついて、腕を絡めて密着する。
「ハルってさぁ、初めてアタシと会って踏まれた時に
「ちょっと待て! それだとオレがヘンタイみたいだろ」
「ヘンタイじゃーん♡」
「い、いや、違うって。でも、ちょっとヘンタイ……かもしれないけど……」
「アタシに踏まれるの好きなんだろぉ? 認めちゃえよぉ♡ ハル♡」
「うううっ、認めたくはないのに、咲に踏まれると心が昂って……」
認めていた。
「えへへ~っ♡ うりうり~♡」
「ちょっと、ダメだって」
デレデレになった咲に抱きつかれたまま、ツンツンしたりコチョコチョされる。照れ隠しなのはバレバレだが。
「じゃあ、皆の所に戻ろうか?」
「おい、その前にやることあるだろ?」
「えっ?」
「んっ♡」
咲が目を瞑って少しくちびるを尖らせる。
完全にキス待ちの顔だ。
「んっ、早くっ♡」
「ううっ、咲のおねだりが可愛すぎて我慢できなくなっちゃいそう」
「キスだけだぞ。ほらぁ♡ キスはエッチに入らないって」
「そう……だよな」
誰も見ていないのを確認してから、静かに顔を近づける。
「咲……んっ」
「あむっ♡ ちゅ……ちゅっ……んぁ♡」
そっと触れるだけのキスをする春近だが、ちょっとだけ咲が舌を入れた。
「えへへぇ♡ キスしちゃったな♡」
「うん。じゃ、じゃあ、戻ろうか」
「おう。ふへへぇ♡」
キスだけで終わるはずだった二人だが、お互いのハートを燃え上がらせてしまったのは知らないままだ。
(うううっ、咲の舌が……。あんな可愛い顔で積極的なキスされたら我慢できないんだろ)
(うううっ、ハルとキスしたら、体の奥がジンジンしてきちゃった♡ アタシがキスだけって言ったのに、もっと色々したくなっちゃったじゃねーかよ♡)
二人ともにウズウズと情欲の炎が灯ったが、こんな場所では誰かに見られそうなので黙ったまま歩いて戻った。
――――――――
春近たちが海の家に戻る頃には昼になっており、海で遊んでいたメンバーもそれそれ休憩していた。
「おまたせ」
春近が声をかけると、ルリと渚が立ち上がる。
「あっ、ハルと……咲ちゃん?」
「何処に行ってたのよ? 怪しいわね」
帰って来た二人に、早速渚がツッコみを入れる。
仲睦まじく寄り添うように歩いて来た二人を見れば、何かあったのは丸分かりだ。
「ちょっとな」
「何かイイコトしてきたみたいね……」
渚が、少し嫉妬の入った目を向ける。
「な、何でもないよ」
「ふーん、あたしを放置して他の子とねぇ」
「な、渚様、落ち着いてください」
威圧感を増す渚に、咲がド直球に言い放った。
「い、いいか、おまえら。性欲ばかり暴走させてないで、たまには真面目に将来のコトとか考えろよ」
グサグサグサグサ――――!!!!
少し冗談交じりに行った咲の言葉が、エッチ女子たちの心に刺さりまくった。
春近と初エッチしてからというもの、四六時中エッチのことばかり考えていて、最近は特に暴走が酷い自覚があったからだ。
渚が図星を突かれた――――
くっ、悔しいけれど咲の言う通りね……
もう、春近を見るとムラムラして止まらないのよ!
最近特に性欲が強くなってきた気が……
きっと春近が悪いのよ!
春近のせいで私が変態に!(元からです)
ルリも図星を突かれた――――
だってだって、ハルとずっと繋がっていたいんだもん。
エッチしまくっちゃうのはしょうがないよね。
ずっとずっと一緒にイチャイチャしていたいよぉ♡
でも……今朝みたいにハルに避けられちゃうのはイヤだし……
天音は図星だらけだ――――
ハル君! ハル君! ハル君!
もうっ、頭の中がハル君でいっぱいだよっ!
はあっ……はあっ……♡
ハル君には、私をこんなにした責任を取ってもらわないと……
あああぁ♡ もう滅茶苦茶にしちゃいたい♡
でも、ハル君に嫌われたくないし……
忍までクリティカルをくらってしまう――――
ああっ、どうしよう……
咲ちゃんの言う通りだよーっ!
いつもいつも春近くんにエッチに迫って迷惑ばかりかけちゃう……
暴走してやり過ぎちゃダメだって分かっているのに、どうしても我慢できなくなっちゃうよ……
それぞれがエッチ過ぎる自分に少しだけ反省している頃、肝心の春近といえば――――
「うーん、焼きそばにするべきか? カレーにするべきか? 悩むところだな」
お昼のメニューに悩んでいた。呑気なものである。
「わたしはカレーが良いです」
アリスがピトッと春近の隣にきた。
「アリス、辛いの食べられるの?」
「おい、子ども扱いするなです!」
「はは、アリスはいつ見ても可愛いな」
「ううっ、この男は……無意識ですね……」
彼女たちに情欲の炎をつけて回ってしまっているというのに、全くもって自覚がなかった。
益々彼女たちの心を燃え上がらせてしまい、この先恐ろしいことになるとは春近も知らないままだ。
そこに姿の見えなかった和沙が飛び込んできた。
「おい、ハルちゃん! 下で栞子がナンパ男に捕まってるぞ!」
「またかよ。ちょっと行ってくる」
再び春近がナンパ男から彼女を救いに向かう。
咲が冗談で行った将来のことだが、実際に楽園計画は進み選択の時期は近付いていた。
ただ、今は……かけがえのない時間をかけがえのない人と過ごすことに夢中になっている。
将来へと進むべき道が楽園であると信じて――――
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