第204話 夏のリゾートに出発

 皆を乗せたクルマが出発した。

 進路は一路南へ、海に向かって走らせる。

 夏の風に誘われる海鳥のように――――



「良い天気で良かったね」


 春近が隣の一二三に話し掛ける。


「……んっ、良かった……」

「あっ、お菓子食べる?」

「……あーん」


 一二三が口を開けて待っている。

 完全に甘えモードになって『あーん』で食べさせてもらおうとしているようだ。


「はい、あーん」

「あーん」


 小動物のような可愛い仕草の一二三に、食べさせている春近はイケナイ気持ちになってしまう。


 ううっ、わ、可愛い――

 一二三さんって、大人しくて従順で優しくて……

 何か……イケナイ気分になってしまいそうな……

 ごくり……


「……春近、目がいやらしい……」

「ぐはっ」


 バレてる!

 オレが頭の中で一二三さんにエッチなイタズラをしようとしていたことが……


「おいっ」

 ツンツン――――


 反対側の席から、咲が脇腹を突いてきた。


「一二三ばっか甘やかしてないで、アタシにも構えよ……」


 咲が嫉妬して拗ねた顔になっている。

 プク顔が可愛い。


「ヤバい、ちょっと拗ねた顔の咲が超可愛い」

「お、おいっ、そういうコト言うなって……言っただろ……えへへっ♡」


 一瞬で咲の機嫌が直ってしまい、周囲の子が『ちょろ過ぎでは?』といった顔をした。

 助手席に乗った栞子だけは必死に体を伸ばして後ろを向いている。


「旦那様……わたくしも……」

「栞子さん、前向いてないと危ないですよ……」


 春近の乗った車はセバス号。

 助手席に栞子

 二列目シートに一二三、春近、咲

 三列目シートに忍、黒百合、あい

 じゃんけんで決めた席なのだが、狭い車内で春近の両隣の一二三と咲は、わざと体を寄せているように見えた。


「春近、デレデレし過ぎ」


 黒百合が後ろから声をかけてきた。

 目の前でイチャイチャしているのを見て嫉妬しているようだ。


「し、してないしてない」

「完全にしている。デレデレ過ぎて、危うく必殺技を撃ち込みそうになる」

「ちょ、待て! そうだ、黒百合ブラックリリー、海に着いたら一緒に遊ぼうよ」

「ふんす! 仕方がない、遊んであげる」


 黒百合の機嫌が直り、隣の忍とあいも笑顔になる。

 皆、海で遊ぶのが待ちきれない感じだ。

 比較的平和に、クルマは海へと進んでいた。




 そして……その後ろを走る渡辺先輩号では――――


 どよおぉぉぉぉぉん――――


 彼女たちのテンションがガタ落ちしていた。


 助手席に和沙

 二列目シートにルリ、渚、天音

 三列目シートに杏子、アリス、遥


 くじ運悪く春近と離れ離れになったエッチ三人娘の文句が止まらない。


「もぉぉぉぉぉっ! 何でハルと一緒じゃないのっ!」

「ハルくぅぅぅぅぅん! イチャイチャしたいよっ~」

「くっ、あたしの春近なのに……」


 二列目シートが騒がしくなり、運転席の渡辺豪がビクビクとしながら運転をしている。


「おい、こっちは初心者マークなんだから、急に大声出さないでくれよ。危ないだろ」

「はあ? ぶっとばすよ!」


 豪がルリに絡まれてしまう。


「あんた、いつもぶっとばしてるわよね」

「してないよぉ。言ってるだけだもん」

「そこの先輩も気を付けた方が良いわよ。この女に逆らうとボコボコにされるから」


 渚が恐怖を煽るようなことを言うので、豪が更に委縮してしまう。


「ひいいっ、勘弁してくれ!」


 実際にルリとは戦ってボコボコになっているので、より恐怖感が増しているのだろう。

 といっても、あの時は大部分は自爆なので、ルリは直接手を出してはいないのだが。



 そんな一番不運な豪に、助手席の和沙が声をかけた。


「先輩も大変ですね。お疲れ様です」

「ううっ、ありがとう」


 和沙の労いに、感涙に咽びそうなほど喜ぶ豪だ。

 ただ、和沙としては先輩の運転が危なっかしいので、後ろを気にせず安全運転して欲しいだけなのだが。



 後席のエッチ三人娘だが、暇になった天音が渚に絡み始めるのに時間はかからなかった。


「もうっ、ハル君がいないから渚ちゃんとイチャイチャしようかなっ!」

「ちょっと、抱きつくな! 暑苦しい!」

「渚ちゅわ~ん♡」


 いつものように、天音が渚にウザ絡みし始める。

 腕を絡ませて胸の辺りを触りながら、キスをしようと『ちゅ~っ』と顔を近づけた。

 さながら、酔っぱらったオジサンのようである。


「や・め・ろぉぉぉぉ~っ! もう、あんたは誰でも良いのかぁ!」

「こんなコトするのはぁ、ハル君と渚ちゃんだけだよっ♡」

「耳を舐めるなぁ!」

「あはっ♡ 感じてる渚ちゃんカワイイっ♡」

「あんたいい加減にしないと容赦しないわよ」



 そして、くんずほぐれつ美女祭りで興奮する女が一人。


「唐突な百合展開でありますな。ふひっ、これはこれで良いものであります」


 騒がしい車内で、杏子だけ百合的な妄想を始める。



「もうっ、渚ちゃんばかり楽しそうでズルぃ!」

「はぁああぁ♡ 渚ちゅわん良い匂い」

「もうイヤ、この席ぃ! チェンジよ、チェンジ! 帰りは別だからね!」


 何だかんだで、盛り上がって海までのドライブは続いた。



 そんな中、アリスは今夜の春近を心配していた。


 ハルチカ――

 今のうちに休んでおくのですよ……

 夜になると、この肉食系女子たちが、春近を狙って動き出すのです……

 もう……わたしには、この性欲が暴走する女たちを止められないのです……

 ご愁傷様なのです……


 ――――――――




「「「海だぁぁぁぁぁーっ!」」」


 クルマが別荘に到着した。

 海が一望出来る最高のロケーションだ。

 皆が海を見て同じリアクションになっている。


 セバスと豪は、二日後に迎えに来るとのことで帰って行った。



 去って行くクルマを見つめながら春近は、これから起こる女子大勢の中に男一人のハーレム展開を心配していた。


 二泊か――

 こんなに女子が多くいる中に、二泊三日も男はオレだけ……

 本当に大丈夫だろうか……?

 エッチ禁止って言ってあるから大丈夫だと思うけど……

 でも……



 別荘に入り先ず揉めると思っていた部屋決めだが、何事も無くスムーズに春近が一人部屋に決まった。

 同じ部屋になろうとしてケンカになる予想していたので、春近としては拍子抜けだ。


「よ、良かった。これならゆっくり休めそうだぜ。皆、エッチ禁止を守ってくれるみたいだな」



 しかし、エッチ女子たちの思惑は、春近の予想とは違って――――


 ルリは――――


 良かったぁ。

 ハルが一人部屋でないと、夜中にこっそり忍び込んでエッチできないもんね。

 はあああ~っ、今から楽しみぃ♡

 いぃぃぃぃーっぱいエッチしちゃお!



 渚は――――


 はあああぁ♡ あたしの春近ぁ♡

 待ってなさいよね!

 今夜はじっくりたっぷりとお仕置きしてあげるから。



 天音は――――


 ハル君が一人部屋で良かった。

 当然、夜這いしちゃおっと!

 うううううぅ~んっ♡ 今夜は自分を止められそうにないかもっ!

 もう、どうなっちゃうのか分からないよっ!



 更に忍まで――――


 春近くん。

 ど、どうしよう……今晩一緒に泊まるんだと考えたら♡

 何だかカラダが熱くなってきちゃったよ。

 もしかして、春近くんが鬼になって強くなったから、もう前みたいに手加減しなくても、本気でしちゃっても良いのかな?



 まだ昼間なのだが、もう夜のことばかり想像している彼女たちだ。

 その前に海水浴が待っているのだが。


 そして、春近はこのまま彼女たちに為すすべなくやられてしまうのか……。それとも、鬼神王の威厳を見せつけて屈服させられるのか?

 その肝心な春近は、呑気に彼女たちの水着を思い浮かべてニマニマしているのだった。

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