第165話 大好きな気持ち
雨に濡れた髪から滴る水が床に落ちる。
普段はヤンチャで生意気そうな表情をした彼女が、妙にしおらしく色っぽく見えた。
「はい、タオル……」
「うん……」
咲はタオルを春近に渡すと、顔を赤くしたまま黙ってしまう。
髪をタオルで拭いていた咲は、ぽつりと呟いた。
「シャワー……入れよ。服乾かすから……」
「あっ、なら咲から入ってよ。風邪ひくとまずいだろ」
「あ、アタシは、やることがあるんだよ! ハルから入れよ。ほらほら」
「う、うん」
咲に押されて春近がシャワー室に入る。
脱いだ服を乾かそうと、咲が春近の財布などを取りだした時に、ポケットの中に入れていたゴム製品がポロっと落ちた。
「あっ!」
マズい、あれはオレがコッソリ夜にコンビニまで買いに行って手に入れた0.02ミリ!
「…………」
咲は無言で可愛い柄がプリントされたパッケージに入ったソレを拾うと、何食わぬ顔でスルーして浴室を出て行った。
ガチャ!
「あ、あれっ? ノーリアクション?」
ザァァァァァァァ――
春近はシャワーを浴びながら頭の中でグルグルと自問自答していた。
あれ、絶対気付いてるよな……
何も反応しなかったけど……
でも、俺がアレを準備していたのは、最初からやる気だったと思われてるのだろうか……?
咲だって、その気だと思うし……
だから、俺を部屋に入れてくれたのだから……
咲とは付き合いも長いし、お互い気持ちは同じだと思うし、あのルリも応援してくれてるし……
他人から見たら二股とかハーレムとか叩かれそうだけど、オレたちは最初からちょっと普通じゃない関係だし、もう覚悟を決めるしかない。
春近は覚悟を決めた。しかし――
でででも、いざするとなると緊張が……
ルリとしたばかりなのに、もう他の子としても良いのかとか、でも咲の事は大好きだし……
ああっ! もう、頭がグルングルンする!
一方、咲の方はといえば――――
は、ハルのヤツ……こんなの準備してたのか……
ヤル気満々じゃねーか!
ハルってエッチなくせに変なとこで真面目で固いから心配してたけど、アタシとはヤル気だったんだ。
ま、まあ、アタシも勝負下着とか付けてるから、人の事は言えねーけどさ……
つまり、お互いヤル気満々かよ!
ヤル気満々で咲の覚悟も決まった。しかし――
うううっ……でも、いざヤルってなると緊張が……
ダメだ……普段はアタシから積極的に行ってんのに、急に怖くなってきた……
あのルリの後だと、アタシのカラダ……がっかりされたらどうしよう……
「んあぁっ! もうっ! こうなったら覚悟を決めて突撃するしかねぇ!」
取り敢えず咲は突撃することにした。
ガチャ!
「ハル、アタシも入るから」
「うわああっ! ちょっ、何で入ってきてんの?」
咲は裸になってシャワー室に突撃した。
目の前の裸の咲に、春近は裸体を凝視したまま固まっている。
「おい、見んな! あっち向いてろよ」
「あ、うん」
春近と咲が背中合わせの体勢になるが、春近の前にある鏡に咲の裸体が映り丸見えである。
咲は何も気付いていないのか、シャワーで体を洗い始めた。
春近は、鏡に映った咲をガン見しながら考える。
うわっ、何だこの状況は!
鏡に映って丸見えだぞ。
咲の体……少し小さな胸も、細い腰も、綺麗なお尻も……全てが愛おしい……
というか、オレはいつまでシャワー室で、こうしているんだろ?
そして咲も色々考えていた。
くっそ、ハルのヤツ! ガン見しやがって!
やっぱ、ルリと比べて小さいとか思ってんのかな?
ヤバい……だんだん自信無くなってきた……
どうせアタシは平らなカラダだよ!
「あ、あの……咲?」
「ん、なんだよっ」
「あの、咲のカラダ……凄く綺麗で可愛いよ」
「は? なに言って……そんな、お世辞で騙されねえからな」
「お世辞じゃないよ。本当に綺麗だと思ったんだよ」
本心だと伝える春近に、咲も満更でもないようで。
「ハルったら、いつもそんなコトばっか言って。まったくしょうがねーな。ふっ、ふふっ♡ も、もうっ! 騙されねえって言ってんだろ。ふへへっ♡」
春近の言葉を否定しながらも、顔はニヤケてしまって緩みっぱなしだ。
さっきまでの自信の無さが何だったのかと思えるくらい、今の咲は嬉しさでいっぱいだ。
えへへへっ、嬉しい。
ハルのヤツめ、正直すぎんだろ!
もうっ、色々悩んでたのがバカらしくなってきた。
そういや、知り合った時もアタシに踏まれて喜んでたみたいだし、もしかしてハルってアタシみたいなのがタイプなのかな?
まったく、ハルってばアタシのコト好きすぎだろ!
しょうがないヤツだな。
そんなハルに、ちょっとご褒美あげちゃおうかな。
咲に変なスイッチが入り、その目に嗜虐的な炎が灯る。
「ハル、アタシが洗ってやんよ」
ぎゅっ!
突然、春近の後ろから抱きつき、両手を回して体を密着させた。
「ちょ、ちょっと、当たってるから」
「へへへっ、ハルってば、相変わらずビックーンってなって面白いな。脱ドーテーしたのに、全然変わってねえじゃん」
「そんな急には慣れないよ」
「ふふっ、ハルが変わってなくて安心した」
咲は春近を座らせてボディソープを塗り始める。
「ほら、背中洗ってやっから座れよ♡」
「ええっ、自分でやるって」
「良いから良いから」
ぬりぬりぬりぬり――
「じゃ、足で洗ってやんよ! ハルこういうの好きだろ」
そう言って、足を春近の体に滑らせてヌルヌルとし始めた。
「ぐわっ、ちょ、何してんの! ダメだって!」
「顔はダメって感じじゃねーよな。もっとして欲しいって感じになってんぞ」
「マズいって! ああっ、それは……」
ダメだっ! 滅茶苦茶気持ち良い!
石鹸のヌメヌメと咲の足の裏の少しザラザラした感じが交じり合って、何とも言えない恐ろしく気持ち良い感触だ。
こんなの体験しちゃったら戻れなくなりそうだぜ。
「ハル……あそこがスゲぇことになってんぞ! ふへっ、こっちも洗ってやんよ」
ヌリヌリヌリヌリ――――
「ぐあぁぁぁっ! もう限界だぁぁ!」
チュドォォォォォン!
――――――――
「ハル……あの……なんかゴメン……」
「い、いや、大丈夫だから……」
シャワーから上がり髪を乾かして、二人並んでベッドに腰かけている。
一度は春近の爆発で気まずくなったが、再び気持ちが盛り上がって二人共上気した顔で、次に訪れる瞬間を感じ取っていた。
もう、何も二人を遮る壁など存在せず、誰も二人を止める者など存在しなかった。
「咲……大好きだよ」
「ハル、アタシも大好き」
二人は、そのままベッドに倒れ込み、なんぴとたりとも邪魔できない二人だけの世界に突入して行った。
ハル、大好きだよ……
出会いは最悪で、アタシはあんなキツくあたったのに、ハルはずっと優しくてアタシを守ってくれた。
いつもアタシを大事にしてくれた。
殺生石の時には、命懸けでアタシを守ってくれて……どんなに殴られてもアタシの前に立ってくれた。
あんなにボロボロになってまで守ってくれて好きだって言ってくれて、アタシはもうこの人しかいないって思ったんだ。
アタシが鬼の末裔だと知ると離れて行く人が多かったのに、ハルはそんなアタシを受け入れてくれた。
ハル……すっと一緒にいたい!
アタシが好きなのは永遠にハルだけなんだから!
……………………
………………
…………
「えへへっ、今日はハルとずっと一緒にいたい」
「うん、一緒にいよう」
「もう絶対に離れないからな! 覚悟しとけよ!」
薄暗くなった部屋に、二人の影が重なり見つめ合ったまま時は流れる。大好きな気持ちを重ね合いながら。
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