第20話 特級指定ヒロイン

 目覚ましのアラームと共に目が覚め、久々に平和的な朝がやって来た。

 今朝はルリのエチエチ攻撃が無い。


 あれから何度もベッドに潜り込むので、必死に頼んで回数を減らしてもらったのだ。

 好意を向けられるのは素直に嬉しいが、朝から超絶刺激的な行為をされると体が持たない。


 ついでに、教室での激しい抱きつきも控えるようにしてもらった。授業中でもお構いなしだったので、担任教師も手を焼いていたのだ。


 窓を開け、新緑の季節が近づいた清々しい空気を体いっぱいに吸い込む。大きく伸びをした所で、春近は栞子言葉を思い出す。


「全然平和的な朝じゃねぇぇ……」


 特級指定されている鬼の転生者をとりこにしろとか言ってたけど……他の女子に手を出したら、ルリが許すとは思えない……

 それに、ルリを裏切るような事もしたくないし。


 今日、詳しい資料を持ってくると言ってたけど……



 教室に向かう途中で、咲とばったり会う。

「咲、おはよう」

「おはよ……」


 ――――咲が少し余所余所しい気がする……



 咲は、先日のルリの言葉が頭の中でグルグルと回っていた。

 “失ってからでは一生後悔するんだよ――――”


 うぅ……恥ずかしくてハルの顔を直視できねぇ……

 今まで自分を誤魔化してきたけど、やっぱりアタシはハルが好きだ……

 最初にあんな事をしちゃったのに、ハルはアタシを守ってくれたし……

 アタシが鬼の末裔だと知っても、ずっと変わらずに一緒にいてくれた……

 一緒にいると楽しくて……

 もっと仲良くなりたいって思ったんだ……


 言わなきゃ!

 アタシはハルがスキだって! 

 そうだ、あそこの角を曲がれば、きっと人が少ないはず……

 よし、曲がったらスキって言おう!



 咲は、春近と並んで廊下の角を曲がった。

「あ…… あのさ」

「えっ、何?」

「あ、えーと……」


 ――――言え! 言うんだ!


「うぅ…………」

 ――――あう…… 頭がフラフラしてくる


「何でもねーよ!」

 ――――あぁぁぁ! アタシのバカバカぁぁぁぁぁ!


 咲がダッシュして走り去り、春近は一人残された――――




 教室に入ると、栞子が近づいてくる。

 当然のようにルリも近づき隣に立つ。


「あ、あの、酒吞さんは席を外してもらえませんか?」

「嫌っ! あやしい! ハルを狙ってる?」

「狙ってません!」


 ルリと栞子が子供のケンカみたいになる。


「ルリ、源さんと大事な話があるから」

「ハル、この女が好きなの?」

「いや、全然好きじゃないから大丈夫!」


 春近の返事で栞子が少しショックそうな顔になった。

 これ以上、栞子の心労がかさむのは可哀そうかもしれない……



「それで、これが資料です」

 ルリが離れてから、栞子が資料を出した。


「現在、特級指定されている鬼の転生者は、酒吞さんを除いてあと4人います」


 資料を見る――――

 4人の写真付きだ。


 大嶽渚おおたけなぎさB組 強制の呪力

 ――――金髪をサイドテールにしている派手な見た目の女子だ。


 羅刹らせつあい  B組 暴虐の呪力

 ――――オレンジ色のハイライトが入った髪をした褐色の肌の女子だ。黒ギャルみたいな感じがする。


 阿久良忍あくらしのぶ  C組 金剛の呪力

 ――――青みがかった髪で、前髪が目にかかっていて表情が分からない。背が高い。


 百鬼ひゃっきアリス C組 呪力不明

 ――――黒髪ロング姫カットで小柄な女子だ。


 凄く強そうなスキルが書いてある……


「百鬼さんは呪力不明なのに特級なんですか?」

 春近が素朴な疑問をぶつける。

 百鬼アリスは背が低く小柄で、見た目も可愛くて他の三人のような迫力は無い。


「彼女の呪力は、一番厄介かもしれませんよ。とにかく不思議な力が働いて、対処が不可能なのです。まあ、全員攻略してもらいますけど」


 資料を見ているだけで気が重くなる。


「あの、一番の問題なのですが、ルリが怒ると思うのだけど……」


「そこは任せて下さい。わたくしに良い案がありますから」

 ハイライトの消えたような目をしながら、栞子が指でグッドなポーズをした。


 ――――御令嬢のような容姿をしていながら、彼女の今までのポンコツぶりを見ていると正直不安しかない……

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