第14話 決戦

 作戦当日となった。

 

 作戦概要は簡単である。

 放課後になったら、四天王の一人である卜部桜花が酒吞瑠璃を誘い出し、待ち伏せしている四天王全員で捕縛するという内容だ。

 人間側は団結しているのに対し、鬼側は同じ特級指定されている他の鬼とは交流も無くバラバラであり、最強といわれている酒吞童子の転生者である彼女が最初の標的にされていた。




「ハル、おはよー」

 今日も激しいルリのスキンシップで密着される。


 普段なら恥ずかしがって離れる春近だが、今日は密着したままルリの耳元に顔を寄せ――――

「ルリ、逃げて。放課後に狙われてる」

 と、そっとささやく。


「ふ~ん……そうなんだ」


「危険だよ。逃げた方が良い」

 ルリに悲しい目に遭って欲しくない。

 とにかく逃げてしまえば……後の事はそれから考えよう。


「大丈夫! たぶん、楽勝だから」


 ルリは、ちょっとコンビニに行こうくらいの軽い感じで答えた。

 そんなに余裕があるというのだろうか……?


「でも……」


 ルリは指を春近の唇に当て――――

「ありがと、私は大丈夫だから、ハルは咲ちゃんを連れて安全な場所まで離れていて」



「ちょっと! いつまでくっついてんだよ!」

 咲が不満そうな顔で睨んでいる。




 ――――ルリは自分の席に付いてから思案する


 頼光だか四天王だか知らないが、蹴散らすのは簡単だ。

 直接自分を狙ってくれるのは都合が良い。

 先日のように、友達に手を出されるのが一番困る。

 そう……先日の……

 一瞬、ルリの脳裏に暗い感情が過ぎる。

 もう、いっその事、目障りな連中を一網打尽いちもうだじんにぶっ潰してしまえば清々しそうだ。

 しかし、そんな事をしたら自分の状況が更に悪化してしまう。

 どうしようか……


「面倒くさい――――」




 ――――放課後


 ルリは用事があるからと咲に告げて教室を飛び出して行く。

「咲ちゃんはハルと先に帰っててねー」



 咲と寮まで歩きながらも、春近はルリの事が気になってしかたがない。


 ――――来るなと言われたけど……でも、見過ごせない……

 たとえ役に立たなかったとしても、ルリを助けたい。


 咲が寮に入るのを確認してから、春近は道を引き返した。




 卜部桜花は極限の緊張感の中に居る。

 普段は機嫌が良さそうにしている酒吞瑠璃が、今はあからさまに不機嫌な顔をして自分の後をついてくる。

 陰陽庁から特級指定妖魔に認定されている鬼である。

 つまり最強クラスだ。

 もし、この鬼が暴れ出したら自分一人では対処できないのでは……


「まだぁ~?」


「もう少しだ……」


 校舎を出て人気ひとけのない裏庭に入る。

 すると屈強な体をした三人の男が立っているのが見えた。


「よく来てくれた!」


 正面に立つ渡辺豪が言う。そして左右に坂田金之助と碓井宝泉が立っている。


「我ら頼光四天王がお相手いたす! 四人がかりで卑怯ひきょうだと思われるかもしれないが許してくれ!」


 頼光が居ない……

 ルリは辺りを探ったが気配は無い。


 まあ、良いか…… あの子、弱いし……



 四天王が戦闘態勢をとるのと対照的に、ルリは心底面倒くさそうな顔をして普通に立っているだけだ。

 四天王側が誤算だったのは、この時すでに勝敗は決していた事だった。

 彼らは直後に圧倒的な力の差を思い知る事になる。

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