第101話




 広隆は辺りを見回すのを止めて広也を見下ろした。

 何もなくなってしまった空間に二人だけ取り残されているようだ。うずくまる広也を見て、広隆はふっと遠野の山中を思い出した。夜の山中をひとりぼっちでさまよっていた自分。あの時はひとりぼっちで途方に暮れていた。でも、今は一人ではない。

「俺、思うんだけど、ここまでたどり着けたのって俺達が初めてなんじゃねえかな?」

 広隆は静かに言った。

「ここまで来たのにあきらめたりしたら、たぶんトハノスメラミコトはすごくがっかりすると思うぜ」

 広也は顔を上げて広隆を見上げた。広隆はにかっと笑った。

「俺はさ、かきわとして緋色と霧の里の連中の期待を背負って、お前はときわとして秘色と晴の里の連中の期待を背負って来たんだ。でも、ぐえるげるやトハノスメラミコトは、たぶん俺達二人ともに期待してたんだ。俺達が兄弟だって知ってて、余計に期待したんじゃないかな? だって、ときわとかきわはトハノスメラミコトから生まれたんだろ。つまり、本来ときわとかきわってトハノスメラミコトの子供——兄弟みたいなもんじゃないか」

 広也は目を見開いた。色々な思考でぐちゃぐちゃになっていた頭の中が、急速にすっきりしていくような感覚がした。まるで、全ての物事が一つの答えに収束していくように。

「だから、きっとトハノスメラミコトは——」

 広隆も己の言ったことに何か大事なことが含まれていたような気がして言葉を中断した。

(ときわとかきわ。元は一つだったもの。一つから二つに分かたれたもの。ときわかきわ。——常磐堅磐)

 常磐堅磐。

 広也の中で全ての言葉が一つに結実しようとしていた。おそらく、広隆も同じはずだと広也は思った。そう、答えは最初から何度も示されてきた。いや、答えは最初から自分達と共にあったのだ。

 広也と広隆は目を合わせてお互いの心中を読みとった。

 そして、二人は同時に叫んだ。

「常磐堅磐っ!」  

 叫んだ瞬間、ズズンっと重い音を立てて地面が大きく揺れた。それと同時に、二人の胸元が白く輝きだし、そこから丸い光の玉がゆっくりと抜け出てきた。


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