第17話 離別
朝の日差しが窓から差し込み、顔に当たるのその眩しさで目を覚ます。そして洗面所で顔を洗い頭をすっきりさせて着替えてから階段を下りて食卓に並べられた料理を雑談しながら食べる。それぞれ起床から多少の行動の違いはあるが、これが今のロイ率いる勇者パーティーの朝のルーティーンとなっていた。
アルトは…いや、アルトとクレアだけは少々異なり、他の住人達よりも結構早く起床する。かなり濃い親子のスキンシップを堪能した後、アルトが調理。クレアは食器準備と味見担当で分かれて朝食の準備を行う。まあクレアはほとんど調理中のアルトを眺めているだけなのでぶっちゃけいなくてもそこまで問題ではなかった。
そんな風にいつも通りに窓から降り注ぐ日によって向かえたいつも通りの朝…の筈だった。しかしその日は勝手が違っていた。
「今日の朝ごはんの出来はどうですかロイさん?」
「あ、ああ。上手いで~流石アルトやな。パンもふっくらして焼きあがっていて触感も香ばしい匂いも最高や。このスープもいつも通り文句無しや」
「そうですか、ありがとうございます」
「い、いや~朝っぱらからこんな食事に毎朝ありつけるなんて俺らは幸せやな」
傍から見ると何気ない朝の会話なのだが、アルトを除くその場の全員はまったく食事に集中出来ていなかった。
その原因は先程からクレアがアルトに話しかけてようとしては躊躇し、食事に手を付けようとするとやはり先に話しかけようとして結局言い出せずの繰り返しで、皆クレアの一挙手一投足に気が散らされていた。
いつもであれば只クレアの挙動不審が目立つ程度なのだが、昨日のクレアの精神崩壊っぷりを目の当たりにしている3人としてクレアがアルトと話しをするかどうかによって展開次第で自分たちも巻き込まれ、最悪いろいろな理由から今日一日が丸々潰れる可能性と自分達も正常な精神状態でいられなくなる事が嫌でも脳裏に過り、彼らとしてはとても楽しく朝食を口に運べる心情ではなかった。
その為ロイがクレアに話しかける隙を与えないように頑張ってアルトに話を振り続けていた。
「もうロイさん。流石にそれは大袈裟過ぎです。でもその言葉はとても嬉しいです」
「は、はははは。まったくアルトはそんな謙遜せえんでもええののにな。ロベルトとセルレアもそう思わん?」
段々1人で会話を膨らませ続けるのに限界が来ていたロイは2人に話を振りながら目で訴えた。
(この状況がヤバいのわかっとるやろ。頼むからお前らも喋って食い終わるまで話を引き伸ばせ)
「ええ、まあこれほどのレベルの料理を作れる人は中々いないでしょうからアルトはもう少し自分に自信を持ってもいいとは思いますが」
「確かにアルトの腕ならそこら辺のお店の料理にだって引けを取らないしね。その…じ、自信を持っていいと思うよ」
3人供口ではアルトの作ってくれた朝食を好評しているものの実際のところは大して美味しいとは思えていなかった。別にアルトの料理に問題があったわけではないし普段であれば美味に感じられたのだが、いつ爆発するかわからない爆弾の隣で食事しているような状態のため脳に正しく情報が伝達されず何となくの間接的な感覚し出てこず、料理の味自体を把握できるだけの余裕を今の3人には持ち合わせていなかった。
そんな緊張状態の中、3人は話し続けながらすぐにでも食卓から離れる為に普段とは比べ物にならないペースで口に入れていった。
無理なハイペースに気持ち悪くなったりして手が止まりそうになるが、クレアが話し始めてそれに巻き込まれた場合の被害を考えると寒気を感じ、キツイながらも頑張って平らげようと必死だった。
そしてようやく食べ終え一刻も早くこの場を立ち去ろうとすると予想外の一言がアルト口から飛び出した。
「そういえば昨日言い忘れていたのですが、僕は今日から暫くこの家に帰って来ません。当分宿暮らしをすることにします」
あまりに唐突に告げられたアルトの告白に3人供呆気にとられていると、話を切り出すのを躊躇していたクレアが聞き逃せないとばかりに言い寄った。
「なんだと!宿暮らしだと。駄目だ駄目だ駄目だ絶対駄目だ!子供が1人でそんな生活を送るなんて危なすぎる!」
「僕は昨日で15歳になったのでもう大人です」
「年齢が15歳になっただけでまだ精神面含めて未熟だ。だから…」
「それなら尚更早く大人になるために自立することは大切だと思います」
「それでもやはり危険すぎる。もし何かあったら…」
「それはそれでいい経験になると思います」
「それはそうかもしれんが…」
渋るクレア。アルトのみを案じているのは本当ではあるものの、反対する一番の理由は単純にアルトと一緒に暮らせなくなるのが嫌だからである。
「それにただの親子の関係だったのに近すぎた距離間を普通にするためにも一旦このホームからも距離を置いた方がいいんです。」
「な!別にそんなことする必要は…」
「それに昨日の件もあって正直しばらくさんと顔を合わせたくないです」
「!」
昨日話し合いでロイ達にも指摘され自覚していたため言い返すことができず、自分の
「それじゃ朝食も食べ終わったことですし、もう昨日のうちに準備は済ませているので僕もう行きますね」
そう言ってアルトは壁に掛けてあったバックを持って玄関を開けて『行ってきます』と挨拶してホームを後にした。
そして残された3人は逃げそびれたせいで、吊り上げられた魚の様に震え続ける阿鼻叫喚のエルフ美女を2日連続で拝む羽目になった。
人類最強の元勇者が人類最狂の親バカへと変貌した mikazuki @mikazukikouya
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