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「ねえマリー、わたくしのお誕生日パーティーはゆめかわいくできたかしら?」


「ええもちろんです。とても素敵でした」


「そうかしら。それならいいんだけど…」



「なあに弱気なこと言ってるのよ、お嬢様」



「あらロイド」


「ごきげんようロイド様」


「ごきげんよう、お嬢様。マリー。お嬢様のお誕生日パーティーから生花の髪飾りやベストが流行ってるんだから。自信もって?」


「そうなの?知らなかったわ」


「さすがお嬢様、素晴らしいです!」



乗馬練習のために集まった彼らは、それぞれの姿を見て言葉を失った。


「…………」


「…………」


「…………」


「…ルチアーノ様もマルセル様も、殿下まで、揃いのベストですね」


「これが今の流行りだと言われたんだが…」


「…同じく」


「(頷くマルセル)」


「ていうか、その水色のベストってなんか覚えがあるんですが、レイラが犬に着せ……げふげふん!」




「最近ゆめかわいいお菓子が増えてきたわね、うれしいわ」


「お嬢様のアイディアの賜物です」


「やだマリーそんな大袈裟な…照れるわ」



「お嬢様、新作のおやつをご用意致しました」


「料理長!待っていたわ!」



料理長は皿を覆うクロッシュを恭しく持ち上げた。



「お嬢様が以前仰っていたアイシングクッキーを参考に、隣国のレシピを取り寄せました」


「これは…!この芸術性に富んだこれはもしや…マジパン!?」


「さすがご存知でしたか」


「あの食べられないマジパン」


「いいえ、食べられますよ」


「あの美味しくないマジパン」


「いえ、美味しく…ないことはないです」


「どっちよ」


「…うっ」



「なんか料理長が泣きながらやたら精巧なジオラマを作ってるんだけど…いつから建築家に転身したんだ?」


トマは厨房を覗きながら首を傾げた。


「でもジオラマは食べられないよな」




「隣国といえばこんなものを取り寄せたよ」


「これは…チョコレート!あの魅惑の食べ物がこの世界にもあったなんて!」


「何を言ってるのかな、レイラは。」


「お父様すごい!素敵!もらっていいんですの?」


「もちろんだよ。ショコラティエという職人が作ったんだよ」


「ゆめかわゆす!女の子憧れの職業ですわね!」


「一体どうかしたのかな、レイラは。」


「おいしい!最高!お父様は神様ですわっ!」



「そんなに喜んでもらえるなら職人連れてきちゃおうかな」


「チョコレートって至宝よね、ああしあわせ…」



「父様がショコラティエ?とかいう人を新しく雇ったんだけど…。なんか彫刻とかしてるんだよな、なんだろうあの人」


トマは心底不思議そうに首を捻った。


「料理長はジオラマの前で悔しがって泣いてたし…彼らになにを求めているんだろう?」




「チョコレートといえば、バレンタインよね」


「それはなんでしょうか?」


「大切な人にチョコレートをあげる愛の日のことよ」


「素敵ですね。お嬢様は旦那様や奥様に?」


「うんマリー。大切な人っていうのはそっちじゃないのよね。もちろんお父様にもお母様にもあげるけれど」


「ではお嬢様はだれに?」


「わ、わたくしはもちろんルチアーノ様よ…。やだ、言わせないで、恥ずかしい!」


「大変失礼いたしました」


「では料理長に頼んで配れるお菓子をつくってもらいましょう。わたくしはカヌレが食べたいわ」


「はい、早速作ってもらいましょう。そして私からお嬢様に差し上げますね」


「うふふ、わたくしもマリーにあげるわね」




「あ、ルチアーノ様こんにちは」


モンタールド邸が甘い匂いに包まれた数日後、トマはルチアーノに会った。


「…え?レイラからお菓子をもらった?ああ、オレももらいました。はい。…はい、でも早く食べた方がいいと思います。え、レイラから?さっきも聞きましたけど……いやレイラが作ったんじゃねえし。作ったのうちの料理長だし」

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