第84話 ????

相手の剣が振り下ろされる。

それを自分の長剣で弾き、そのまま切り降ろす。

そんな私の後ろから、別の騎士が切りかかる。身をひるがえし躱しつつ剣で切り上げる。

更に流れのまま右から来た相手を切り飛ばす。

私の使う長剣は、相手の持つ一般的な長剣と比べても数十センチは長いので常に相手の先手をとれる。

今やっているような10人程度相手の模擬戦で相手の剣を受けるような事はない。


召喚されて約半年。私達は戦闘訓練に明け暮れていた。国としては私達をすぐにでもどこかの戦場に向かわせたかったようだけれど、戦いなんて無縁な世界から召喚された私達ではとても即戦力にはならないという判断くらいは出来たみたい。


向こうでは大地が盾で相手を吹き飛ばしている。そのまま片手剣を首に突き付けるとその相手は死亡扱い。後ろから切りかかってきた相手は後ろ蹴りで吹っ飛ばして、その勢いのまま体制を整えてる。決してキレイじゃないけど大地のフィジカルを生かした実戦的な戦い方ね。


もう10人相手程度の模擬戦では私達の訓練にならなくなってきている。かと言って単純に相手の人数を増やしても意味がない。となればそろそろ実戦に投入されそうね。


「ドカン!!」


模擬戦に切りをつけた私が、そんなことを考えていると、大きな爆発音が響いた。


「小雪の魔法も凄いよな」


いつの間にか模擬戦を終えた大地が私の横でそんなことを言っている。


「ふふ、聖女のイメージじゃないけどね」


小雪は召喚されてすぐに回復魔法が使えたことから聖女と呼ばれている。大地は聖剣を振るう事が出来たということで勇者と、そして私は自分の背丈ほどもある長剣を振るいこの世界の騎士たちを寄せ付けない強さを身に着けたことで剣聖なんて呼ばれるようになった。


「結構高レベルな攻撃魔法に回復魔法、そのうえ補助魔法で俺たちの戦力を底上げできるんだからな。もう戦力的には俺達3人だけでちょっとした軍隊並じゃないか。そうは思わないか剣聖様?」

「はあ、まったく大地は能天気なんだから。勇者なんて言われてるけど聖剣はちゃんと使えるの?」

「まあ、普通の剣使うよりは威力あるのは確かだな。でもあれって単なる重たくて普通の人間には持てない剣なだけに思えるんだけどな。重いから当たると威力はあるけど。でも伝説にあるようなトンデモ性能があるようには思えないんだよな」


「”勇者の振るう聖剣は巨大なドラゴンを切り裂き、魔王を屠った”ってあれね。多分大げさにすることで勇者への信仰のようなものを作り上げてきたんじゃないかしら」

「ふーん、そんなことして何か良い事でもあんのかね」

「色々とあるわよ。ピンチになった時の勇者召還に説得力持たせるとか。勇者召還に成功した時の威圧感が増すとかね。更に言えば戦いの最前線に召喚した勇者を放りこむのも簡単ね」


召喚した側からすれば使い捨てにしても構わない、いえ、はっきり言ってしまえば使い捨ての武器扱いなのは間違いない。これは大地も小雪も気付いて無さそうだし、私も口にのせると下手すれば首が飛びそうだから言えないけど。


それ以上は触れず、あとは雑談をしながら大地と並んで城に向かって歩いていると、魔法の訓練を終えたのだろう小雪が合流してきた。


「お疲れ様。聖女様の魔法も随分と強力になってきたみたいね」

「真奈美、聖女呼びはやめてって言ったわよね。やめないなら真奈美のこと剣聖様って呼ぶわよ。……魔法はね、大分よくなったわね。最初は詠唱とか恥ずかしかったけど、魔力も大分増えたから最初の頃みたいに1発撃っておしまいなんてこともないわ。その代わり体力はほとんど一般人だけどね」





「勇者様方、訓練も順調との報告を受けております。すでに実力としては十分で、あとは実戦で慣れていただくばかりだとか」


城に入ったとたんにフィアン・ビダルさんが声を掛けてきた。おそらく私達が実戦を少しでも後にしようとしているのに気付いているのだろうけど、そうと感じさせず、それでいて実戦に出るように圧力をかけてくるのは宗教家というより政治家ね。かと言って、いつまでも引き延ばせるわけでは無いのも確か。ここで下手に大地にしゃべらせると明日にでも出征させられかねない。


「司祭長様、私達はこのような戦闘の無い世界から召喚されました。力こそ付いたとは思いますが、まだまだ付け焼刃の域を出るものではありません。実戦において多少のパニックに陥っても身体が動くように十分な訓練をしなければ逆にあなた方の足を引っ張るだけになるでしょうし、悪くすれば味方を傷つけることさえ考えられます。今しばらく訓練期間を頂きたいと考えております」

「な、し、慎重な剣聖様のお考えは分からないではありませんが、そこまでの事は……」

「なら、例えば私がパニックに陥って見境なく剣を振るったならどうやって止めてくれるのですか?」

「そ、それは……」


今回の模擬戦を鑑みても私や大地を止められるものでは無いのは間違いない。フィアン・ビダルさんがが口ごもる中、さらに追撃をしておくのが良いでしょうね。


「それだけではありませんよ。小雪がパニックになって高火力の魔法を敵味方見境なくばら撒いたら?あれを防ぐ障壁を貼れる魔法使いいます?私だって多分逃げるので精いっぱいです。とても味方を助ける余裕はありません。敵味方全滅した荒れ地に私達3人だけ立っている状況をお望みですか?」

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