第28話 朝の月

 金剛夜月の朝は遅い。

 

 そもそも眠る事自体が大好きだし、早起きしたところで三文程度の得しかない、その程度の事で貴重な睡眠時間を削る必要はあるのだろうか、いやない。

 そんな訳で今日も今日とてぐっすりと眠り続け、鬱陶しいスマホのアラームで目を覚ます。

 ああ、24時間眠る事が可能だったらどれほど良いか。

 いやまあ、最近はそんな風に思う事も少なくなっているのだけど。

 むくりと身体を起こし、のそのそとベッドから這い出る。

 そして寝間着から制服に着替えてから部屋を出る。

 家の中はとても静かだ。

 多分、誰もいないんだと思う。

 両親は共働きで朝早くから出掛けているし、姉さんはいつも通りさっさと家を出たのだろう。

 姉さんは人込みが嫌いで、何より立っているのがキツイらしいから、始発の電車に乗るために早く家を出るのだそうだ。

 まあ、私も立っているよりかは座っていたいのでそこら辺は理解出来るけど、私の場合はそれよりも睡魔の方が勝るので、優先度的にいつも睡眠を長く取っている。


 さて。

 食パンを袋から取り出し、牛乳をカップに注ぐ。

 電子レンジ、600ワットで一分20秒。

 生温い程度の温度が適温。

 その間にヨーグルトを皿に移し、机に運んでおく。

 ヨーグルトはいつも乳酸飲料と一緒に食べているので、それも一緒に。

 そうこうしている内に電子レンジが「ぴー」と鳴る。

 中からカップを取り出し、それもまた机へと持っていく。

 準備は万端。

 手を合わせて、独り呟く。


「いただきます」


 味に関してはまあ、普通。

 どれもこれも既製品。

 美味しいもクソもないと思う。

 そもそも食パンを美味しいと感じた事がない。

 栄養補給のための手段として摂取しているし、それは多分高級パン屋さんで購入したとしても感想は変わらないと思う。

 だから私は食パンを牛乳で流し込むように食べる。

 そしてあっという間に食パンを消費し、ヨーグルトも飲み物のように飲み干す。

 食事時間は多分、五分にも満たない。

 あっという間にだ。

 それが私の朝食風景。

 朝食大好きなイギリス紳士が見たらぶったまげそうな光景だと我ながら思う。


 朝食を終えたら、後はもう登校するだけ。

 バッグを持って、鍵をしっかりと閉めてから家を出る。

 

「行ってきます」


 その頃になると完全に目は醒めていて、眠気の欠片もない。

 電車の中で手すりにつかまりながらぐらぐら身体を揺さぶられても、睡魔は全く襲ってこない。

 ちゃんと睡眠を取っているからだと思う。

 そのまましばらく電車での移動を続ける。

 下車し、それから数メートル徒歩で移動しようやっと学校へと到着だ。

 

 そのまま私は教室へと行こうかと思いながら周囲を適当に見渡しながら歩いていた。

 特に注意深く周囲に気を向けていた訳ではない。

 だから、彼女の存在に気が付いたのは、本当に偶然だった。


「日乃本、先輩?」


 日乃本朋絵先輩が歩いているのが見えた。

 しかし、なんだか様子がおかしい。

 生気がないというか、なんだか足取りがフラフラしているというか。

 凄く調子が悪そうだし、明らかに普通ではない。

 

「……」


 何か、あったのだろうか。

 しかし日乃本先輩の元へ走って大丈夫かと尋ねたり出来る程度胸はなかった。

 なんだか、今の彼女、雰囲気が怖かった。

 とはいえ、そのまま見過ごすのもなんだかおかしい気がしたので。


「……一応、武さんに連絡しておきましょうか」


 どうせ、彼女も放課後になったら天童家に向かうだろう。

 その時、武さんがどうにかすれば良い。

 そう軽く思い、私はスマホでメールを送るのだった。

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