NTRゲーの竿役おじさんに転生した俺はヒロインを普通に寝取っていく

カラスバ

第1話 物語の始まり

 先週、兄貴が亡くなった。


 優秀な兄貴だった。

 まさしく文武両道。

 勉学も運動も出来た兄貴はとてもモテて、現在の兄貴の妻はその時出会い付き合い始めた人だった。

 その後彼は国立の大学へと入り、優秀な成績を残し卒業。

 大企業へと就職し、これからの人生は華やかなモノとなる事はもう約束されたようなものだった。

 そんな兄貴は、妻と共に突然の交通事故で亡くなった。

 突っ込んできたトラックに身体をぐしゃぐしゃにされ、残された遺体等はとても無残なもので見られたモノではなかった。

 

 炎に呑まれただの白骨へと化していく兄貴の姿を見、しかし俺は心の中で喜びを隠せなかった。

 あの兄貴が死んだ。

 ずっと俺の事を引き立て役にした、忌々しい奴が。

 兄貴の妻に関しては同情するが、しかしそれ以上に喜びが勝っていた。


 ああ、まったく。

 人生というのは本当に分からないものだ。

 優秀な兄貴が死んで、愚劣だと言われ続けた俺が今も生き続けているのだから。


 そして二人には一人の娘がいた。

 名前を、天童桜子。

 正月に何度かあった事があったが、兄貴の妻の遺伝子が勝っていたのか兄貴の雰囲気は感じられない、とても可愛らしい女の子だった。

 その子は今、俺の家にいる。

 正確には兄貴が俺に遺した、今はもう俺のモノとなった家に。

 普通ならばこういうモノは娘に相続する、というかそうなっているはずなので、桜子ちゃんのものになっていないという事は兄貴が意図的にそうしたという事になる。

 どうしてかは分からない。

 桜子ちゃんが大人になった時、改めて遺書を書き直すつもりだったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 

 今までアパート暮らしだった俺が今では立派な一軒家暮らし。

 そしてそこには可愛らしい女の子がいる。

 ああ、本当に俺は幸福だ。

 兄貴の幸福の証だったものは、今や俺の手の内にある。

 これを幸せと言わずに何と言うか。


 桜子ちゃんも、そうだ。

 あの可愛らしい女の子は、俺の庇護なくては生きてはいけない。

 それはつまり、あの子は俺のモノと言っても間違いないのではないか?

 ああ、そうだ。

 俺のモノだ。

 俺の女だ。

 

 そうと決まれば早速あの子の眠る部屋へと急ごう。

 階段を足早に昇る――


「あ゛」


 慣れない家。

 慣れない階段。

 つるりと足が滑り、身体が傾く。

 咄嗟に手すりを掴もうとするが空を切る。

 幸い俺が足を滑らせたのは階段の一段目。

 だから大怪我をする事はないだろう、けど――


 ドカッ!!


 大きな衝撃。

 脳を揺さぶられる。

 そして同時に。


 俺は、


「え、なに? 俺、エロゲの世界に転生したの?」


 呆然とそう呟く。

 しかし自身の頭の中にある情報と前世の知識を統合させるとそうとしか思えなかった。

 この世界は、特に俺の周囲は、『気づけばみんな、あいつの雌になっていた』というエロゲにとても酷似している。

 メインヒロイン、天童桜子の家庭事情など、まさにそう。

 両親を交通事故で喪った薄幸の少女。

 主人公との交流、そして恋によって一時の幸せを手に入れる――そうなるかと思われたが、しかしそれは俺の魔の手により崩れ去る事になる。

 主人公の知らないところで行われる行為。

 主人公の手から零れ落ちていくヒロイン達。

 そして最終的には――

 そんな感じの有りがちなNTR系エロゲーだ。


「ええ……」


 ヒロインの一人、桜子ちゃんと俺が一緒の家に暮らしているという事は、もうストーリーは始まっているのか?

 一応ストーリーは桜子ちゃんが交通事故に会い悲しみに明け暮れるところから始まる。

 だとすれば、ここはまさに物語の序章手前。

 まさにその時なのだろう。


「……」


 俺はゆっくりと足音を忍ばせ、慎重な足取りで階段を昇る。

 そして昇った先にある部屋の扉をゆっくりと開き、そして部屋に静かに足を踏み入れる。


 ベッドの中。

 そこには薄い桜色の長い髪の少女。

 天童桜子がそこにいた。


 この子を。

 俺は。


「く」


 笑いが零れそうになるのを必死に堪える。

 それから俺は彼女を起こさないようにゆっくり部屋を出る。

 

 リビングへと辿り着き、そこでふーと長く息を吐く。

 にやにやが止まらない。

 ああ、本当に『俺』は幸福だ。


 これから、あんな可愛らしい女の子を俺のモノに出来る訳だから。


 俺は決める。

 俺はこの世界で、原作通りの結末を目指すと。

 可愛い女の子を自分のモノにし、ハーレムを築くと。


 なに、きっと物語の強制力とかそういうのがあるに違いない。

 きっと俺の願いは適うだろう。

 そのためには、まず。


「桜子ちゃんが起きた時、お腹を空かせてたら可哀そうだしな」


 お夜食作ろ。

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