譚ノ間
「まだ付き合っているのか。回りくどい」
邸に戻る前にとある場所に寄った。
レイキ会。
“人ならざるモノ”や陰陽師、僧、坊主……“人”ならざる力を持った者などが所属している特殊な組織。
遥か昔から存在しておりこの日ノ国でも存在を知っている者は限られている。
レイキ会に所属しているモノは“人”に害を及ぼしすぎないように取り図ることを条件に一部“人”の姿を取っているモノ達は“人”のように税金を支払い、日々を生きている。
話を戻し、紫月がレイキ会の濃紫の垂れ幕の隙間から中へ滑り込むや否や、紫月はそう声をかけられた。
出迎えたのは長い黒髪を結い上げ、簪で飾り、左目には珍しくモノクルをかけた女―――このレイキ会を実質仕切っている“鬼喰”一族の一人―――綺羅々だった。
「おや。今宵も山登りをして来たのだから、おかえりって出迎えて欲しいな。義理姉様」
冷たい声に対して紫月は軽い調子で言葉を返す。
「いつ報告に来る所か立ち寄るかも分からんのに何を図々しいことを言っている」
軽い言葉に対して冷たく硬い言葉が返ってくるが、それもいつものことである。
紫月にとっては回りくどいやら何やら言われるが悪いことをしているわけではないと思っているので受け流すだけだ。
部屋に来いと言われて紫月は綺羅々の後に続く。
また説教だろうか。
軽く報告をして帰ろうと思っていたが、回避できそうにもないので大人しく彼女に先導されて部屋に入る。
男ならば、口答えをしてもしなくても雰囲気だけで酷い目に遭わされるだろう。
彼女は“鬼”が金棒を持つどころか持った金棒を振り回し、男を天高く打ち上げたかと思えば地深く落とす女だから。
「で、いつまで時間をかけるつもりだ?」
部屋に入るや否や椅子に座り、綺羅々は紫月に問う。
「んー。ボクの気が済むまで? それに余興というか余裕を持って課程を楽しむのもいいじゃないか」
そう答えるが綺羅々はバッサリと早く済ませろと告げる。
「義理姉様。あともう少し待ってよ。ボクにはボクのやり方があるって昔っから言ってるじゃないか。仕事は楽しくなくっちゃね」
「仕事ではない。義務だ」
まったく、この義理姉は頭が固い。
そして恐ろしく効率的で生産性が高いことを望む。
いかにスピードが速くスマートに義務を果たすかということを見ている。
昔に比べればこれでも多少丸くなったのだから、良しとしよう。
「ボクは仕事って思ってるんだけどなぁ。その方が楽だし、仕事含め人生楽しく生きるっていうのがボクの信条だから」
それじゃあね、と紫月はひらひらと手を振ってレイキ会を出る。
空は朝焼け。
墨染から濃紺へ、濃紺と橙色が混ざり合い、あと数時間もしない内に薄くまたは濃い青の青空が広がることだろう。
「さてさて。今宵にも備えて、邸に戻ったら寝ようかな」
一伸びをすると邸に戻り、紫月はすでに敷かれている布団に倒れ込む。
布団の何と心地よいことか。
そのまま紫月は眠りに落ちたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます