第208話 王子の抵抗

―クルム王子視点―


 選挙結果が出た瞬間、保守党は絶望に包まれた。

 歴史的な大敗。

 有力議員ですら選挙に落選した。

 長年守り続けていた地盤すら陥落する始末だ。


 たしかに、大貴族の当主や昔からの大商人はいつものように支持をしてくれた。だが、それ以外の票はほとんどが自由党に流れたようだ。有権者のほとんどから保守党を拒絶した。


 俺の誇りが足元から崩れ去った。

 次期国王が、婚約破棄した元婚約者に負けたのだ。


 王族すらいらないと言われたようなものだ。


『これでクルム王子は後継者レースから脱落したな』

『あそこまで有利な立場でありながら負けたんだからな』

『保守党が野党に陥落なんて……全部、あの腹黒王子のせいだ。政局は得意でも、政策はろくなものを作らない』

『クルム王子は10年前から政府の中枢にいたのに、何も残していないよな。権力を守るのはうまいけど、ずっと停滞していたし』

『それなら、ルーナの方が結果は残している。家も身分も財産もすべて失ったのに、実力で宰相まで登りつめた』

『結局、王子はあの優秀な女性を手放して何がしたかったんだろう。見る目がなさすぎる』


 そんな噂が届く。屈辱でしかない。

 だが、まだ希望はある。


 海賊の遺産を使って、どちらに属するかはっきりしない議員は買収してある。これでだいたい20議席が上乗せされて、俺を宰相に指名する元老院議員は220人。


 保守党220対自由党253。これでもまだ負けているが、自由党のアラゴン=レオン男爵一派が内応を約束している。20人の議員を連れて、こちらに流れてくれれば大逆転が発生する。


 そうすれば、俺の評価はまだ復活できる。

 勝利を確信したルーナを絶望の淵に叩き落して保守党は返り咲く。


「リムル、アラゴンの件は本当に信用して大丈夫なんだな? ここで保守党が陥落すれば、今までの悪事はすべて暴かれる。私もお前も終わりだ。わかっているな?」


「は、はい。もちろんです、殿下。アラゴン男爵からは血判状をもらいうけて、殿下に忠誠を尽くすと言ってもらっております!! ご安心ください」


 世論は反発する可能性が高いが、魔女の新聞社を使って情報操作して封じ込めるしかないな。


 バカな民衆のことだ。選挙のことなど3カ月もたてば忘れる。

 この大逆転でルーナの求心力は地に落ちて、自由党は空中分化するはずだ。


 これで元に戻る。俺は宰相になり、そして玉座に座る。

 ルーナはこれで終わりだ。あいつらは自分が追い詰められているとは思わず今頃浮かれているだろう。


 最後には、王族の威光が勝つ!!

 そうに決まっている!!!!

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