第128話 政治家としてのルーナ=グレイシア②

 そして、保守党議員が議席を離れた。

 保守党すべての議員がいなくなったわけではない。

 アドリアン幹事を支持する保守党議員の15名が議会から離れた。


「現在の議会参加議員を確認します。……35名の出席が確認されているため、議決の有効性は認められます。このまま議事を進行させていただきます」


 予定通り7割の議員の出席は確保できたわ。これで過半数が18まで下がった。すでに、私たちは20人の議員の賛同を獲得している。勝利は確実ね。


「それでは、議案第2号の港湾改革法案の決を採ります。議案に賛成の方々は、ご起立ください」


 議員たちはゆっくりと立ち上がった。

 

「賛成21票。反対14票。よって、議案第2号は可決となりました」

 私が頭を下げると、議場は拍手に包まれる。

 こうして、私たちの夢は少しずつ実現に向けて動き始めた。


 ※


―議長控室―


 今日の本会議が終わって、私たちはカレン副議長と打ち合わせをするために控室に向かった。今日は法案審議が中心。私たちの港湾改革と教育改革法案は無事に成立した。ひとあんしんね。


「おめでとうございます、ルーナ知事?」

 カレン副議長は議長の立派な椅子に座って私たちを迎えてくれた。


「おかげさまですよ、カレン」

 私たちは力強く握手をする。私たちの共犯関係は成立していた。


「それでは、いきましょう。記者たちがお待ちですよ」


「わかりました」


 私たちは軽く雑談を済ませると、記者会見場へと移動した。議会の終わりに、知事と議長がそろって記者たちの質問に答えるのが議会の慣例だから……。


 すでに、会見場ではたくさんの記者が集まっていた。私たちが入場すると、記者たちは敬意を示すために一斉に立ち上がった。


 事実上の第2ラウンドね。ここには保守党派の記者たちも多く詰めている。議員の出席も認められているから、アドリアン幹事も後ろに控えている。ここで私たちに猛攻撃を加えるつもり……か。


 最初は簡単な質問ばかりだった。議案の骨子と成立後の影響とかね。


 そして、ついに本命の質問がやってきた。


 それは貴族の子息のような姿の記者から発せられた。


「本日の議会の後半で、保守党議員の大多数が議決を欠席しました。これは、知事と議会第一党の保守党の対立の表面化だと思われます。知事の任期最初の議会でこんな状況になったのは異例中の異例でしょう? 知事の指導力に疑問符をつける意見も聞かれていますが、そちらについてもご説明をお願いします」


 ついに来たわね。アドリアン幹事は鋭い眼光の奥で笑っていた。勝利を確信している余裕……


 でもね、アドリアンさん?


 気がつかなかったわね、私の思惑の本丸に?

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