第104話 英雄vs海賊

―グラン船長視点―


 突然攻撃されて、逃走に使っていた馬車は爆発した。俺も外に投げ出されて体を強打する。全身に痛みが走る。激痛だ。はげしくムチに打たれたかのような痛みが全身を貫いた。


「痛え、痛え。ここで捕まるわけにはいかねえんだ」

 俺は痛みをこらえてなんとか立ち上がる。普通の兵士くらいなら腕っぷしで負けるわけがない。俺はこの腕一本で大海賊団を作り上げたんだ。


 り殺して逃げてやる。だが、俺の前に現れたのは普通の兵士ではなかった。


「アレン=グレイシア。イブール王国の英雄がどうしてここに……」


「俺を知っているか?」


「知らないやつのほうが少ないだろう? ひとりで国王暗殺計画を頓挫させて、テロ組織を壊滅させた怪物がぁ」


「過去の話だ」


「お前はこのタイミングなら、元老院議員の仕事のために王都にいるはず……なぜ、こんなに早く」


「それは国家機密だ。君は大人しく投降してくれ。傷つけたくはない」


 傷つけたくはない、だと!?

 俺を誰だと思っているんだ、この若造がぁ!


 いいだろう。見せてやる。俺の最後の輪舞曲ロンドをな。せめて、腕の一本はもらっていくぞ。


「剣を抜くとはな。投降の意思はないと?」


「俺はお前が生まれる前から、剣を握ってるんだそ。稽古けいこつけてやるよ」


「ならば、全力でいかせてもらう」


「来いよ、白馬の騎士ホワイトナイト様! 本当の戦いを教えてやる」


 俺たちは剣をぶつけあった。いい筋だ。一刀を交じるだけでよくわかる。俺が今まで戦ってきた中で最高の使い手だ。パワーやスピードは段違い。重心移動も基本に忠実で、力だけの相手じゃない。さらに、同じモーションでも、まるで別の技を繰り出して来やがる。なんていう手数だ。このままなら間違いなく俺の首が飛ぶ。


 だがな、あくまでお前は騎士の戦い方なんだよ。俺みたいな地獄を見てきた奴じゃねぇ。お行儀ぎょうぎが良すぎる。俺の左手には、先程転倒したときにつかんでいた砂をたくさん握っている。


 こいつを目潰しにして、カウンターを決めてやる。いくら達人でも、目が見えなければ怖くなぇからなぁ?

 

 あとは目が見えないやつをなぶり殺しだ。卑怯ひきょうだ? おれはなぁ、命をかけて海賊やってんだよ。


 スキを見て俺はやつの目に砂をかけた。


「ぐぬ」


 白馬の騎士様は苦しんでやがる。今のうちだ。俺はあいつの体をめがけて全力で剣を振るう!


 勝った。目が見えないあいつには絶対に避けられない!!


 だが、あいつに攻撃が当たる前に俺の体にあいつの剣が到達していた……。


 まさか目が見えない状況でカウンターを成立させたというのか!? どんな戦闘センスだよ。


 斬られた腹のあたりが熱い。内臓がやられたのかもしれない。吐き気とともに俺の意識は失われていった。

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