第80話 ルーナvs王子
「ありがとうございます。連絡もせずに申し訳ございません」
「ああ、それはしかたないよ。だって、記憶喪失だったんだろう? それも偶然アレンの領土にたどり着いてよかったな。貴族の令嬢が何も持たずに知らない土地に取り残されても1年生きてさらに地方の知事として復活した。なんという奇跡だろうね?」
嫌味ね。暗にアレンの裏切りと私の実績を批判している。めんどくさい王子様。
「ええ、ひとの温かさに助けられた1年間でしたわ。王都にいたころはこんなに人が優しいなんて思えませんでしたから……」
私も嫌味は嫌味で返す。王都でクルム王子と過ごした10年間では味わえない貴重な体験をしてしまったから――
もう王都での生活になんて戻れないわ。
「そうか、満足しているのか。それはよかったよ。ルーナが望むなら貴族の身分や爵位も元に戻せるように尽力させてもらうよ。キミの強い責任感はこの1年間でみんなに伝わったはずだ。誰も反対しないよ。いくら婚約は解消したからって僕はキミの元婚約者だ。キミと何年も同じ時間を過ごしてきた。家族同然の女性だ。甘えてくれ」
なにを言っているの……
この人は一体何を言っているのよ!
自分の利益のために私たちを切り捨てた男が――
※
「キミと私の婚約は解消だ、ルーナ。早く王宮から出ていけ。いや、違うな。貴族社会にお前が残る場所はない。イブール王国宰相代理として、お前に命ずる。ルーナ。キミの身分と財産はすべてはく奪する」
「お前はもう平民だ。二度と会うことはないだろうな。さあ、何をしている、お前たち。この平民を王宮の外に連れ出せ。平民の汚い足で、王宮を汚すな」
「金もないお前に用はない。今回の災害も、お前の父親のミスが被害を拡大させたのではないか! お前はその責任を取って、身分をはく奪されるのだ。何の問題がある?」
「何を勘違いしているんだ? 俺は王子だ。王子の失敗を、部下のお前たちが取るのが自然の道理だろう。お前たち家族は悪徳貴族で義務をはたさずに被害を拡大させた。だから、失脚するんだ。世の中には便利な言葉があるだろう? なぁ、悪逆令嬢ルーナ? それとも、処刑されたいのかな?
※
あの日、ぶつけられた暴言を私は絶対に忘れない。
だけど、この人にとっては私たちはボードゲームの駒みたいな存在なのね。都合が悪くなれば簡単に切り捨てるし、利用価値があれば平気で優しくする。
気持ち悪い。
嫌悪感しかない。
こんな人と私はあの時まで婚約していたんだ。本当にバカね。
「クルム殿下、もしよろしければ昔なじみの3人だけでお話をしませんか?」
私は逃げない。
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