第41話 ふたりの夜

 私たちは、お互いの気持ちを交換した。

 言葉にしなくてもキスをするだけで私たちはお互いに自分が相手のことを好きだとはっきりわかるの。


 こんなに満たされた気持ちになるなんて初めてよ。

 他の人を好きになるってこんなに幸せな気分になれるのね。ずっと政略結婚するためのうわべだけの関係だったから知らなかった。


 夜もすがら、私たちはお互いに触れあい続ける。


「ねぇ、アレン様? あなたは私のことをいつから好きだったんですか?」


「そうだね。初めて見た時かな?」


「それって……」


「恥ずかしいけど、ひとめぼれだった。ルーナに会えたことが運命だと思ったよ。だからこそ、キミがクルム王子の婚約者だと知った時は奇跡だと思えた運命を呪った。でも、それもまた反転するんだけどね」


「反転してくれなかったら、私はここにいなかったんですよ」


「ああ、だから奇跡なんだよ。神様は俺たちが結ばれる運命だと最初から決めていたと思えるんだ」


「なら、私は最初からあなたの婚約者でいたかったんですよ。それなのにこんな回り道をしてしまったんです」


「人生において回り道なんてことはないよ。でも、その途中でルーナは大事な人たちに出会うことができたんだから……それは必然だったともいえるよ」


「アレン様。私はこの国を変えたいです。あの災害の時も、クルム王子の政治的な思惑がなければもっと被害を減らすことができたと思います。貴族たちが豪華な暮らしをするために村の人たちは苦しんでいました。この国はどこかゆがんでいます。貴族の力が強すぎるんです。特権が人をダメにしているんですよ。特権を与えられた人たちは、国を良くすることや民を豊かにするという義務を忘れて自分の利益だけを追求している」


「ああ、そんなことが続けばこの国は滅ぶ。僕も協力するよ。キミと閣下の夢を一緒に見たい」


「アレン様が一緒なら心強いですよ」


「だが、私はすべての公職を辞めてきた。予備役大佐にあんまり期待しないでくれよ?」


「違いますよ。本当の意味での私にとっての王子様はあなたです。だから、頼らせてもらいますよ?」


 そして、私たちは今日何度目かわからないキスをした。


 早暁そうぎょうの明かりが村を照らした。


 私たちの夜は少しずつ終わっていく。

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