第39話 アレンとルーナ

 私が手紙を書き終えて1週間後。

 アレン様が家にやってきたわ。


「わざわざ来てくださったんですか」

 仕事が忙しいのに、私のために時間を作ってくれる彼に申し訳ないと感じつつも、頼りがいを感じてしまう。本当の意味で私の王子様はアレン様ね。


 そんな思春期の少女みたいなことを考えてしまう。私は汚い政治の世界をずっと見て来たのに彼のことだけは信じることができるのよ。


 それがどれだけ奇跡のようなものかよくわかってる。だから、大切にしたいわ。

 彼が危機的な状況になったら、私は命を張ってでも彼を守る。


 それが私のために命を懸けてくれた彼にできる恩返しだもの。


「ああ、王都で動きがあったからね。キミたちに説明したかったんだ。俺もフリオ閣下に会うことはできるかな?」


「えっ!?」


 私は驚きながら声を失う。だって、そうでしょう?

 アレン様はクルム第一王子の側近中の側近よ。幼少期からサポート役として常にともに動いてきた陣営の重鎮。


 アレン様は近衛騎士団の副団長という重責を若くして担っているのもその人間関係が影響しているわ。


 だから、アレン様がフリオ閣下と接触するというのは異例中の異例。

 敵陣の幹部が、対立陣営の最高権力者に接触する。


 まるで戦争の前触れみたいな状況よね。


「大丈夫だ。ルーナが心配してくれているのはわかるよ。でも、今回は悪いニュースじゃない。むしろ、キミたちにはいいニュースを持ってきたんだ」


「いいニュースですか?」


「そう。俺はクルム王子と取引した」


「取引?」


「実は、俺はこの1年間、秘密裏に宰相様と接触していたんだ。俺たちの後見人になってもらおうと思ってな」


「宰相様ですか!?」


 現宰相様は、国王陛下の弟よ。あの兄弟は、イブール王国の中でも例外といっていいほど兄弟の仲が良い。


 つまり、宰相様が私たちの後ろ盾になってくれるならそれは国王陛下も公認してくれることと同義。でも、宰相様がどうして私たちの後ろ盾に? 利点があるのかしら? いえ、そうじゃないわね。宰相様との接触は完全にクルム王子への裏切り行為だもの。


 つまり、王子と宰相様との間になにかあったのは間違いないわ。


「そうだ。実はクルム王子と宰相様は政治的に対立している。クルム王子は宰相様を追い落とそうとしているんだ。そうしなければ、自分が王国ナンバー2になれないからな。王子はかなり強引な手法を使って情報局を掌握しょうあくしたが、その手法が周囲の反発を呼んだ。そして、宰相様は危機感から王子と対立を始めたんだよ」


 やはり、そういうことね。なら、私という存在は切り札になるわ。

 元婚約者の暗殺未遂なんて大スキャンダルだもの。


 でも、そんな王子を裏切るようなことをしたら……


 アレン様の立場はどうなるのよ!?

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