第34話 同盟

 私は真実をすべて話す。


 父がクルム王子に助けを求めたにもかかわらずそれを握りつぶされたこと。

 私が助けを求めても、それを拒否して婚約破棄を突きつけたこと。

 すべての責任を伯爵家に押し付けて、私を殺そうとしたこと。


 そして、とある人物に助けられて今は隠れて生活していること。


「なるほど。それで森の聖女と言われていたんですね」

 クリス男爵はすべて納得したように話す。


「ごめんなさい。私の立場的に本当ことは言えなかったんです」


「いえ、謝ることではありません。その話が本当ならば話せる内容ではありませんからね」


「ありがとうございます」

 これでとりあえずは私の正体については説明できたわ。あとは他の人たちが評価するべきこと。


「ルーナ殿は、現体制についてどう思いますかな?」

 閣下は私に核心をつくように迫る。お互いに腹を割って話そうということね。ここまで話してしまえば何も怖くないわ。


「まず、平民階級から搾取さくしゅする構造が問題です。列強国は識字率向上に力を入れて産業を伸ばす方向にシフトしています。しかし、イブール王国はいまだに教育は貴族に独占されていて知識が全国民に行き届かない危機的な状況です。平民に知識を与えてしまえば反乱が怖い、テロなどが発生し治安が維持できなくなる。それが貴族側の言い分ですが、ヴォルフスブルクやグレアではそのような傾向は認められていません」


「ふむ。イブール王国の貴族が前時代的な考えに凝り固まってしまって周辺国から置いていかれると?」


「そうですね。今の社会は、ほとんどの国民ががんばって作った富を税という形で特権階級だけが享受しているいびつな関係です。力がある貴族の領土の一部だけが発展してそれ以外の場所はおいていかれる。私が住んでいる村も、男の人たちは出稼ぎにでなければ生活が成立しない人がたくさんいます」


「……この社会が改革なしに進めばどうなるかな?」


「最悪の場合は列強国に敗北し併合されて貴族と国民が奴隷のように扱われる未来でしょうね。そうならないとしてもこのいびつな関係では国家の発展なんて望めません。いつかは限界がきて国は2つに分裂する。どちらにしてもたくさんの血が流れることは間違いないかと……」


「私も同じ意見だ」

 閣下は私の考えに納得してくれたみたい。


「やはり、現状を変えるためになにかしないといけませんね。閣下は『クロニカル叙事詩』の現代語訳を通して貴族の知識の独占を崩そうとしているんですね」


「ああ、その通りだ。そして、もうひとつ作戦がある」


「作戦?」


「ああ。改革主義者は我々だけじゃない。声をあげることはできないが、現状の体制に不満を持っている者はたくさんいる。その改革派を集めて、パーティーを作る。保守党に並ぶもう一つの党だ」


「まさか、貴族に団結して戦いを挑むんですか?」


「そうだ。現状の体制で唯一の救いは選挙に勝てば誰でも政治に参加できることだ。我らの協力者を増やして保守派に対抗しよう。自由党。私はそう名付けようと思う。ルーナ殿も結党に参加してくれないか?」


 私は、また新しい人生の岐路に差し掛かった。

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