第22話

 ドタドタとあわただしく大きなものを動かす音で目が覚めた。

 硝子の天井は朝陽を受けてキラキラと輝いている。まだ空は少し藍混じりで、リュカもキリルも眠っているようだった。


 「ちょうど、いい。起きたなら。ここは捨てる。お前たちも用意しろ」


 茂みの向こうから声がした。昨日は入らなかった草むらをかき分けて歩いていくと、名前の分からない彼がいた。

 彼は様々な色のついた紐が出ている箱をドアの近くに集めている。

 彼の近くにある箱。様々な大きさ・形をしており、複雑そうな操作レバーのようなものがついているものもあれば、本当にただの箱としか見えないものもある。外見に一貫性は無かったが、いくつかの箱には「願導製造機」と書かれているのが見えた。

 手伝おうと近寄るが、身振りで追い返される。ここから出る準備をしておけとしか言わない彼に従って、キリル達のもとへ向かう。

 

 「起きろ、朝だぞー!」


 広場に出ると、既に起き上がっている2人がいた。

 身支度をしていると作業を終えたらしい彼がやってきて、朝食をとる間も無く地上に出るように促される。

 ここに来たときは不安で不気味な暗さに包まれていた階段だったが、改めて見ると道幅がかなり広い。建物の骨組みも多くの部分が残っており、ここがかつて非常に重要な施設であったことを偲ばせる。


 「なにも追い出すこたァねえじゃねえか。もうちょっと休ませてくれたってよォ」


 階段を登りながらぶつくさと文句を垂れるキリル。目の前にはところどころ残存する天板にぶつからないようにかがんで歩く彼がいるのだが、キリルのことを気にするそぶりは無い。


 「でも助かりました。せめて名前だけでも教えていただけませんか?」


 リュカが何度訪ねても返答がなかった質問を改めて投げかける。昨日と同様に返答は無かったが、キリルの不平には答えてくれた。


 「昨日も、言ったが、ここ、ハッパの、場所。アブナイ、ハヤク、逃げる」

 

 誰もが要領を得ないまま彼の後についていく。階段は登るにつれて構造が変化していき、どんどん狭くなっていった。石造りの階段になって暫くすると地上が見えてきた。


 「オマエタチ、早く、行け」


 彼は手を一振りすると、歩いて森の中へ消えてしまった。



※     ※     ※



 「いったい何だったんだ? あいつは」


 再度東に向かって歩き始めて暫くすると、皆が思っていることをキリルが口にした。

 結局彼についてわかったことはなにも無いに等しかった。ただ一つわかったことと言えば、あの地下には彼が所有している魔導機らしきものがたくさんあるということだけだった。


 「キリルにしては珍しく、大人しく退いたよね。あの魔導機っぽいの奪っていこうぜとか言い出さないかと思ってたんだけど」


 「ツヅクはあれとやり合って勝てる自信があるらしい。ついこの前活躍したからって調子に乗ってんなァ」


 アハハ、と苦笑いしているリュカ。そんなに強そうな見た目には見えなかったけど……。


 「バカだなァ。大抵、自分より図体がでけェ奴には喧嘩売らねえ方が良いんだよ。その上歩いてる最中ですら、どこにも隙が無ェ。ありゃ相当できるぞ」


 「流石キリル君は鋭いね。私も助けてくれた彼に仇で返すのは良くないと思うし、単純に闘ったらめんどくさい奴って感じのオーラがすごく強かったからねー」


 キリルもリュカも冗談で言ってる様には見えない。


 「確かに得体の知れない魔導機みたいなのたくさん持ってたし、只者では無いなーとは思ってたけど。2人ともそんなこと感じてたんだ」


 「そうだねー。怪我が治っただけでも奇跡みたいなことだし、今は食べ物を求めて人里を目指そー!」


 リュカが勢いよく右腕を上げるや否や、物凄い爆音が背後から響き渡り、突風が巻き起こる。振り返ると、そう遠くない場所から黒い煙が立っているのが見えた。


 「私とキリル君の勘は大正解だったらしいね。焼ける匂いもするし、火の手が来ないうちに早く行こう」

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