第3話 傘越しに見る雨。 00章
あの頃は雨の日にビニール傘の中から空を見上げると、ほんのちょっと憂鬱な気持ちを忘れられた。今はそんなことをする余裕もないくらいに、日々色々なことに追われている。気持ちを麻痺させて、憂鬱ささえ感じない世界へと運んでいってくれるのだから皮肉である。だから大学生の頃の自分自身に言ってあげたい。
「あなたが思っている以上に、今あなたがいる世界はずっと素晴らしいものだよ。 だから「普通」だなんて思わないで。」
って。
いつの間にか桜色の絨毯から、濃い緑色に模様替えした頃。ちょうど今日みたいな灰色と白のコントラストが広がる空からしとしとと雨粒が落ちて来ていた。湿気のせいで思い通りにならない髪型が鬱陶しい日だった。もうずっと昔の話だけど、今でも鮮明に思い出せる。けどあの時は何でもない普通の日だと思っていた。きっとそれは世界の皮肉も、美しさも知らなかったからなんだと思う。だけどきっとあの日がもし晴れてたら、もし自分のことを特別だと思っていたら、そのあとあの人に密かな想いを寄せることなんて、なかっただろうな。
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