第2話 天色の空。 01章
「・・・・・・ぁ・・・・・・ぎくん!・・・・・・・・・・・・かぎ・・・!・・・ おい起きろ! 昨日、今朝1限からだって言ってたろ?」
俺は誰かに起こされ、目が覚めると何か柔らかいものの上に乗っているのが分かった。真新しい白い天井に、派手な間接照明が見える。意識がはっきりとせず、自分がまだどこにいるか分からない。
真上から前髪の一部分だけが白く染まった長髪の男が覗きこんできた。
「おい、赤城くん! ここお前の家より遠いから、早くいかないと遅刻するぞ⁉」
ちょっと前に起きたごたごたから、急激に距離を縮めた、「変人」の緑川だった。
彼の持つうさぎ柄のマグカップから漂ってくるコーヒーの香ばしい香りが、ここが緑川のマンションということを思い出させてくれた。
昨日サークルの帰りに、駅の向こう側のこのマンションにお邪魔したのだ。ここ一週間ほど毎日ように通い続けているが、昨晩の熱のこもった彼の話は夜半過ぎまで続き、頭がパンクした俺はそのままもふもふのソファの誘惑に負けてしまった。
「・・・・・・おはよ~ 今何時~?」
「もう8時半! 俺はお前のママかよ!!」
その声に勢いよく起き上がると、スウェット姿の緑川が眉間にシワを寄せて立っていた。
俺は軽く髪の毛を整えながら、この間知り合ったばかりの友人宅で、いつの間にか寝てしまっていたことのバツの悪さを感じ、急いで自分の荷物を探す。
「––––––ごめん、ありがとうっ! それじゃ急ぐから!!」
何か文句を言っているような声を尻目に、自分のボロアパートよりあからさまに広い玄関を後にした。
駅から四方に伸びた道路が、それぞれ別のエリアへと続いている。途中商店街や学生アパートが立ち並ぶ大学へ続くこの道は、ほとんど一本道である。そのため朝のこの時間にこちら側をて歩いているのは大学に関わりのある者ぐらいだ。
俺は商店街を過ぎたあたりで昨日と同じ格好だということに気がついたが、一度着替えに自分のアパートに寄ると確実に遅刻してしまう。同じ方向へ向かう集団の中に見知った顔がいないか確認しながら、マンションを出たところから少し早足になっていたスピードを緩めた。
後ろから掛け声とともにジャージの集団が駆け足で通りすぎていく。大学の手前にある少し傾斜のきつい坂道を運動系のサークルが毎朝走っているのだ。入学してから2ヶ月近くたつが見慣れた光景だ。
横をバスが通りすぎる。後ろの窓から数人がわざわざ振り返って俺を見ている。これも見慣れた風景だ。霊感の強い俺に惹かれてか、近くにいる幽霊はたいてい俺を眺めてくる。
(幽霊じゃなくて、かわいい女の子だったら大歓迎なのにっ・・・・・・・。)
そんなことを思っていると、唐突にマンションを出る前の緑川の言葉が蘇ってきた。
『––––––スイッチ! OFFにするの忘れるなよ!! 』
自分の霊感が開いていることに気がついた。
少し前に俺の身に起こったあることから、緑川に霊感の使い方を教えてもらっていたのだ。昨日もそのためにわざわざ、普段行かない駅の向こう側まで足を運んでいた。
緑川含め、霊感のある人はたいてい日常生活に支障をきたすため、力のスイッチをOFFにしている。よほどの場合を除いて自らONにしなければ切り替わることは少ない。けれど俺の場合、意識してOFFにしていても、いつの間にか勝手に開いてしまう。そのため磁石に砂鉄が引き寄せれるように、幽霊たちが俺に引き込まれてしまうのだ。特に大学にきてからというもの、力が増して厄介事に巻き込まれ得やすくなってしまったらしい。
俺は深く深呼吸して、自分の奥底から溢れ出ている霊感を意識する。それを身体の真ん中辺りに集めるイメージ。そのまま頭の後ろにあるであろうスイッチを無理やりOFFにした。
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