第1話  蛍火の季節。 01章


––––––––––––––––––––––––––––––––––––。


 「 新歓は肝試しに決定!! 」


 体育館のステージ横の狭いスペース。その中にギターやアンプがギュウギュウ詰めに置かれている。設立2年目のフォークソングサークルの部長が、ひとりマイク片手に高々に宣言していた。

 女子にモテたいが、毎日講義の後、遅くまで何かに取り組むほどの労力を惜しみ、週2日だけ活動しているこのサークルに大学に入学してすぐに加入した。なんとなくいつもいるメンバーの顔と名前が覚えられてきた頃だけど、特別活動らしい活動をしているとは思えない。勉強の息抜きなのか、他に行き場もないのか、毎回8畳もないこの空間に10名ほどが常駐している。

 本来ならフォークソングサークルなので新入生歓迎会は演奏会などを行うものと思っていたが、部長含め先輩方は特別サークルの目的を重要視していないようだ。それは不純な動機で入った俺にとってもありがたいことだった。


 「今年は新入生も多いし、予算もあまり掛けられない・・・・・・ 親睦を深められて、ワイワイできる企画としてはなかなかいい案じゃない!? 場所をどこにするかだけど ––––––誰かいい場所知らない?」


 「肝試しならやっぱり墓地?」


 「見つかったらやばくね?」


 「廃墟とか・・・・・・この辺りあまりないしねぇ~・・・・・・」


 都市部から少し離れたこの大学は地元出身者がほとんどいない。いい場所と言われても困る。そのため俺も含めて、口々に思い思いのことを言っているだけにすぎなかった。そんな中、真ん中あたりに座っていたひとりがおもむろに立ち上がった。


 「大学から15分ぐらいのところに、ホタルが見れる沢があるんすよ! 地質研究部のやつらがそこで女の霊を見たって噂してたんで、そことかどうっすかね?」


 長髪に前髪の一部を白く染め、黒いネクタイをしたやつがそう言った。フォークソングサークルというより、軽音楽サークルの方が似合いそうだ。俺は彼を見た瞬間、首の後ろがチクチクとするような感覚に襲われた。それは向こうも同じだったようで、ぐるりと周りを見渡した後、俺の方を見ながら左手で首の後ろをさすっていた。




 結局、新入生歓迎会はそのままホタルの見える沢で肝試しに決まった。その後ダラダラとギターを弾くやつもいれば、ずっと肝試しについて話しているやつ、そのまま体育館を後にするやつで、各々自由な時間を過ごしていた。俺は帰り際、同じサークルの友人の佐藤にさっきのやつについて聞いてみることにした。


 「あぁ、さっきのやつ? 構内で見かけたことがあるけど、あんまり話したことないなぁ~ ––––––プライド高そうで近寄りがたいんだよな~ お前あんなのがタイプなの!?」


 「そういうんじゃないよっ! この大学には珍しいタイプだと思っただけ~!」


 「まぁ確かにそうだな・・・・・・ うちの大学がなんだかんだきっちりしているから、それなりに頭いいのが多いし、あぁいうやつは珍しいわな」


 俺の霊感についてはまだ誰にも打ち明けてはいない。この数少ない友人の佐藤にもだ。同じ学部ということもあり、サークル以外でも親密な関係で、何かと俺を気にかけてくれるやつだ。

 (だけど大学内にいる人の3割ぐらいは幽霊で、しかもさっきのやつを見たら、背筋がぞくぞくしたなんてことを言ったらっ・・・・・・ 明日から昼食はひとりで食べなくてはいけなくなるかも知れない・・・・・・ 運が悪ければ何かと研究熱心な学部だから、実験のモルモットにされても困るしぃ・・・・・・)


 そんな漠然とした不安が、俺自身と他の人との距離を埋められない理由になっていることは自覚している。




 大学から街灯が等間隔で立つ薄暗い田舎道を、新生活でのあるあるネタを話しながらの帰り道。そこだけ明るさが目立つコンビニの前まで来たところで、急に佐藤は俺に訪ねてきた。


 「肝試しだけど・・・お前も行くよな・・・・・・?」


 「はじめは演奏会とかすると思ってたけど、肝試しなら女の子と仲良くなれるチャンスだしなぁ!」


 「まぁそうなんだけど~・・・・・・ 実はさぁ、肝試しの場所のこと、前に他のやつに聞いたことがあるんよ。俺そういうの苦手でさぁ・・・・・・ そいつが言うには声が聞こえたり、急に肩が重くなったり! 実際何か見た訳じゃないけどその近くを通っただけでいろいろとあるみたいなんだよ・・・・・・」


 「大勢で行くし大丈夫でしょ? それにそっちの方が女の子と近づけるし!」


 「お前なぁ~っ・・・・・・・」


 そのままコンビニに入り、そこにしか置いていない駄菓子のことで、肝試しの話はそこまでとなった。



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