#09 燃えてきた

「よっしゃ。お許しももらったし、祭りじゃ。コラ。喧嘩上等ッ!!」


 唐突に秀也のバイクが横滑りしてバイクの車体を進行方向から見て真横に向ける。


 天下の往来で、よくもそんな豪毅な事をできるな。ある意味、尊敬すらできるぞ。


「かかってこいや、オラ。全殺しじゃ」


 背に竜の刺繍がある黒の革ジャンを着た秀也の背中が妙に頼もしい。


 チッ!?


 進路を塞がれたBRZは停車を余儀なくされる。しかしながら、そのままだと鬼と化した秀也に襲われると考えたのか、あり得ない挙動をし始める蒼き狼(BRZ)。なんと停車した状態で、背後(テール)を横滑りさせてからUターンをしたのだ。


 つまり、


 バイクなどでは、よく見られるマックスターンを四つ輪で、やってのけたわけだ。


 本来ならば車体を寝かしてバンク角を稼ぐ事で後輪を空転させてターンを為し得る。しかしながら四つ輪の車体は斜めに寝かせる事など出来ない。だからこそバンク角などを稼げないから後輪を空転させてターンするのは実質、不可能だと思える。


 しかし、


 件のBRZは眼前(ゴルゴの背後)でやってのけた。


 つまり、四つ輪でも可能だと証明してみせたわけだ。


 まるで、


 特撮もの映画やアクション漫画の一場面にも思えた。


 それほどまでにも派手で信じられないような出来事であったわけだ。


 無論、走り屋でもない僕には、どういった仕組みでターンを成功させたのかなどという理論的なものは全く分からない。それでも為し得たところを目撃してしまったのだから信じるしかない。ちょうど幽霊を見てしまいソレを信じるようになるよう。


 ダニめ。


 と舌打ち混じりに言うかのようターンを終えたBRZが、一路、町中へと消える。


「めっちゃ面白くなってきたじゃねぇか。この俺ッちから逃げ切れると思うなよ?」


 秀也も町中へと逃走を図るBRZを追いかけてゆく。


 フムッ!


「どうやら追い詰められたようですね。……彼もまた」


 と、フーが目を閉じたまま、微笑む。


 僕は、おやっ? と不思議に思った。


 今、彼、と言った。


 なんとなくだが、違和感を感じる。無論、あのBRZの運転手が誰なのかは分からない。しかし、僕らを追ってきた(あまつさえ事故らせようとした)という事は、この事件の犯人である一正、もしくは黒幕であろう若中野野乃実ではないのか。


 それを、敢えてなのかは分からないが、彼と表現する事に意味があるのだろうか?


 いや、野乃実という名を鑑みるに野乃実は女性であるから彼ではおかしいわけだ。

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