#08 神様
ハウが後ろ頭に手を回して天井を見つめてから言う。
「アハ。あたしは神様を信じるよ。神様は、きっといて、あたしらを、ずっと見ているんだ。お天道様が見ているっていうでしょ。アレよ。アレ。絶対に見てるって」
どうやら今回の事件は……、そういったものが、裏で糸を引いている気がするよ。
サングラスのブリッジをくいっと人差し指であげる。
なんだ、いきなり。
怪訝な顔つきになった僕をサングラスの奥に隠れる天真爛漫な瞳で見つめるハウ。
「ああ。ごめん。ごめん。いきなり。でも、さっき、南無阿弥陀仏だとか、南妙法蓮華経だとか言ってたでしょ。あたしは宗教は信じない。けど神様は信じる。だって」
と言ったところでガクンと車体が前のめりに揺れる。
僕らの体にもGがかかって、前方へと投げ出される。
どうやら強くブレーキを踏み速度を落としたようだ。
無残にもハウからの言葉が途切れる。
「フフフ」
目が逝ってしまったホワイは、ちろりと赤い舌を口の端から覗かせて妖しく笑う。
ねっとりとした赤い舌は軽く上下運動をしてから、口の中へと戻る。
「ようやく、ですね。これで役者が揃いましたわ。ようこそ、六道の臨界地へ……」
そう言われても、全く意味が分からない僕は、ホワイの視線の先へと視線を移す。
ゴルゴの左側に開いた狭いスペースに口元を黒いマフラーで隠す、秀也が現れた。
「オッス。オラ、悟空なんかじゃねぇぞ。コラ。むしろ天津飯に餃子付きランチだ」
右人差し指と中指を立てて小癪にも指を前に動かす。
ピッと。
まあ、俺ッちは寿司職人なんだがな。
前にも述べ、繰り返しになるが、秀也は日章ロケットカウルに日章タンクが、まぶしいバイクにまたがる。2メートルはあろうかという三段シートが軋(きし)んでいる。おおよそ暴走族のそれと言ってしまえば不親切ながらも的を得た表現だろう。
「よう。探偵さん。無理言って店を休んできて良かったぜ。……困ってんだろう?」
俺っちに任せろ。黒道化師(ブラック・ピエロ)の特攻隊長さんが助けてやんぜ?
てか、この速度域で会話とかあり得ない。お前らに恐怖というものはないのかッ!
「フフフ。別に困ってませんわ。むしろ愉しんでます」
ホワイは前を見たまま静かに応える。
てか、会話が出来る事自体が不思議。
「あらら、ホワイ姉ぇさん、つれねぇっすね。でも、そんな姉ぇさんも素敵ッス。だから、ここは、いっちょ、任せてくれねぇっすか。役に立ちますから。うっす」
もはやホワイの術中にどっぷりとハマってしまっている秀也は笑う。
ホワイも心得たもので、自分が一番、可愛く見えるであろう笑顔で、哀れな子羊へと応える。無論、子羊が求めに応じた仕草を織り交ぜた、あざとい計略とも言える微笑みでだ。端から見ていると恐怖を感じ、背徳感すらも覚えてしまう、それで。
「ウフフ。……では、お任せしました」
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