#06 返答
ノーズが触れる度に、コツコツという軽い警戒音が鳴り、恐怖感が加速してゆく。
南妙法蓮華経。祓い給え。救い給え。色即是空。輪廻転生。神よ。
思わず腰がひけて前屈みな僕。
プスプスッと屁も漏れてくる。
「くさっ」
しかめっ面で、苦笑いのハウ。
うっさい。屁も漏れるわ。これだけ恐いとな。
「フム。今、ホワイに聞きましたが、山口君、南無阿弥陀仏か南妙法蓮華経のどちらかにした方が良いですよ。にわか信心は怪我の元ですからね。よろしいか?」
よろしくない。うっさい。単なる困った時の神頼みなんだから気にするな。アホ。
そんな僕らを放っておきバックミラーでBRZを確認するホワイ。
「フフフ。……なかなか面白い趣向ではないですか。もっと愉しませてくださいな」
だから。
その横顔、恐すぎるッスよッ!
しかも、降雪は吹雪へと成る。
そして、
いまだ、ただの一回も赤信号に捕まってない。
これは推測なのだが、信号に捕まっていないというものは、煽られ、テール・トゥー・ノーズまでかましたBRZに対する返答だろう。こちらはこちらで、ちゃんと嫌がらせをしていますの。そのタイミングで、いつまで張り付けますか? とだ。
そのタイミングとは、神がかったものだから、
どうしても背筋が凍ってしまい、冷たくなる。
信号に捕まらないのが、お得意の計算なのか、なんからのトリックが潜んでいるのかは分からない。それでも絶妙過ぎるのだ。数多の信号を、すり抜け、しかもケツをつつくBRZには、確実に赤になるタイミングを、お見舞いしていたのだから。
「ふふふ。ヤマケンさん、勘違いしないで下さい。これは、単なるドラテクですの」
もちろん計算でもトリックでもありませんわ。
などと含みを持たせた笑みを浮かべるホワイ。
また心を読まれたが、今は、そんな事よりだ。
あの嫌がらせが、計算などではないとすると、それは、それで驚きだ。タイミング取りが神がかっている。先が赤にならないだけでも、あり得ないにも関わらず、後方の敵には、すべからく、きっちりと赤(パンチ)を、お見舞いしているのだから。
それでも件の蒼き狼の牙はゴルゴの喉笛を虎視眈々と狙い続ける。
雪が溶け滝となってフロントガラスを流れる。
忙しなく左右に動き続ける最終で最後の頼みの綱、ワイパーが風で軋(きし)む。
さらに狭まる視界。
カッ。面白い。BRZ-XXを舐めるなよッ!
殺してやるよッ!!
なんて口にしているのか、いきなりBRZのエンジン音が一層、甲高く遠吠える。
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