#05 テールとノーズ

 しかしながら……。


 もはや一正の家からは遠く離れており、これから、どこに行くのかも分からない。


 てかさ、市街地で85km超えとか、どこの自殺願望者なんだよ?


 僕は、高速で、やっとこさで85kmくらいしか出せないのにさ。


 とッ!?


 生意気だよ。お前。


 と、どこかから謎の言葉が聞こえた気がした。


 姉貴ッ!


 てかッ!


「敵さん、そろそろ、いい加減、イライラが絶頂みたいだね。このまま、ここから飛び降りて、やつのフロントガラスにライダーキックを、お見舞いしてこようか?」


 押忍っと、また両腕を肩幅まで広げる、ハウ。


「ふふふ。……死んでもいいのならば、よろしく、お願いしますわ」


 僕のフーレアワゴンのより、一回り、ごっついモモステを握りしめ笑う、ホワイ。


「うぬぬ。余は、まだまだ死とうないのだよね」


 と残念そうに肩を落とすハウ。


「だったら我慢しなさい。ここは貴方の見せ場ではないのですから」


 と言ってから、アクセルを更に開けるホワイ。


 遂に時速は90kmを超える。


 ぶうぅ。


 とふて腐れるハウ。


 その平和なやり取りとは対照的にも景色は消え去るよう後方に流れて焦りが募る。


 ねぇ、もう少し速度を落とそうよ。ねぇねぇ。


 お願い。


 両手を組んで南無阿弥陀仏と助けての神頼み。


「オダマキね。オダマキの花言葉を送りますわ」


 例によって、あの花言葉がホワイの口から滑り出たが、ハウに言ったんじゃない。


 言うまでもないが、僕に言ったわけでもない。


 多分にBRZの運転手に言ったのだろう。無論、この時は蒼き狼が追いかけてきているなんて分かっていなかったからハウに言ったんだろうと考えた。ただし、なんだか、妙な違和感を覚えていて、本当にハウに言ったのかとは疑問に思っていたが。


 そんな気持ちを察したのか、口を開くホワイ。


「ふふふ。ヤマケンさん、まだ気づかないのですか、ケツに張り付く青いのにです」


 青いの?


 ケツに張り付いているだって?


 咄嗟にゴルゴの後方に視線を移す。そこには、やはりBRZがいて、しかも車間距離ゼロと言えるほどまでに接近していて煽っている事に気づく。その煽り運転は、まるで電車の車両同士が連結されているかのようにも思える距離感と状態だった。


「マジか」


 という言の葉が口から漏れる。


 そんな気持ちなど、お構いなしにテール・トゥー・ノーズをかまし始めるBRZ。ゴルゴの後部(テール)にBRZの先端部分(ノーズ)を軽く触れさせてきたのだ。この速度域にあっても恐怖など微塵も感じてないと宣言されたようにも感じる。

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