#04 一手遅し
「フーさん、それは分かりましたよ。でも、今、知りたいのは、そんな事じゃない」
眉尻をあげて思うのだ。
思う。強く思うわけだ。
忌々しくもなってくる。
舌打ちさえしたくなる。
つまり、
先にトラックの事を話題にあげたのはヒント料をせしめる為の布石であったとだ。
聞いてしまえば、なんの事はないもので僕を釣ろうと考えていると感じたわけだ。
疲れて拍子抜けした隙を狙っている。聞きたいのは、それじゃない、聞きたい事は違う、という願望を出汁にし、思わず僕からヒント請求してしまうという状況になるよう仕組んでいる。心理的な隙間を突いてきていると考えたわけだ。口惜しい。
絶対に思惑通りに動くもんかとフーを睨み付ける。
ただ、いまさら言うまでもないが、いまだにトラックのなにを調べればいいのかが分かっていない。だからこそ逆に狡猾なる策に気づかなければヒント請求をしていただろう。それほどまでに巧みで、心を上手く操作されていたわけだ。
それに気づけたのはファインプレー。
無論、金塊というホワイの話も、一つの心理的誘導であったと、今ならば分かる。
実に上手くも仕組まれた一連の流れ。
「あれれ」
と、ハウが、また僕へと視線を移して豪快に笑う。
「ケンダマンのやつ、また勘違いしてるよ。まあ、でも、それにも慣れてきたけど」
「フフフ」
とホワイが佇み微笑む。
……片仮名で笑ってる。
「ハウ。それは違いますわ。勘違いというよりも一手遅かったと言うべきでしょう。意味は分かるでしょ? 答えなくて結構ですよ。答えは分かりきっていますから」
ハウは、
「まぁね。確かに一手遅かったと言った方が正確かも。パパがトラックの話をし出した時に気づくべき事だわさ。それとも金塊の話が出た時に気づいてもいいかもね」
口を尖らせて一つ大きな口笛を吹く。
「てかさ。姉貴、見て。見て。また来てる。あの車」
と後ろ頭へと右腕を回してから、右人差し指で、いくらか離れた道路を指し示す。
まるで興味なしとばかり、のろのろと気怠そうに。
「フフフ」
ホワイは視線も動かさず、敵意をそこへと向ける。
そこには……、あの黒塗りブラウン・マジェスカ。
いい加減しつこいとも思えるような執拗なるストーキング。やはりと言うべきなのか、逆光になっていて運転席に誰がいるのかは確認できない。いや、むしろ存在を悟られないような絶妙な位置取りをした運転手を褒めるべきか。うぬぬ。小憎らしい。
と……。
ホワイからの敵意が届いたのか、ブラウン・マジェスカは、ゆっくりと始動する。
その後、かき消えるように冬の間に溶けていった。
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