#03 いらない情報

「さてと」


 フーがタイヤから視線を外し見つめてくる。


 相も変わらない柔和な笑顔で、優しげにだ。


「なぜ、このトラックが事故を起こした車両だと分かったのかですが、聞きたくはありませんか? もし宜しければ、雑談として、軽く、お話ししてもいいですよ」


 おうっ?


 教えてくれるのか、なんの気まぐれなんだ?


 いや、うなずくだけにしておこう。機嫌を損ねて、おじゃんになってはだからな。


 でも、本当に知りたい事は、それじゃないんだが。まあ、いいか。


「フムッ」


 と僕の意思をくみ取ったのか、フーが笑む。


「よろしい。数日前に事故を起こした車両を稼働させるリスクをご存じでしょうか。いやいや、応えなくて結構。知らないからこそ分からなかったのですからね」


 分からなかったとは、無論、このトラックが事故を起こした車両だったという事。


 それ位の簡単な事だったら、僕でも分かる。


 うん。じゃ、続きを聞こうか。


 僕は素直に微笑み、うなずく。


「リスクとは、つまり、事故を起こした運転手が稼働していると勘違いされるだとか、反省の色が見えないだとかいった事になります。無論、他にも沢山ありますが」


 ともかく、そのどれであろうと小さな宅配会社が背負えるようなリスクではない。


 無論、杞憂で終わる細かい心配事ばかりなのかもしれません、が、


 それでも、出来るだけ、リスクは避けたい。


 そう考えるのが、普通の経営者なわけです。


 特に、このような小さな会社であれば尚更。


 フムッ!


 いつになく饒舌な彼が、たたみかけながらも丁寧に教えてくれる。


 そうだな。確かに言う通りだ。いくらか強引な理論展開にも思えるが、リスクを考えれば、なるべく避けるのが普通だろう。僕が、この会社の経営者ならば、まず間違いなく、このトラックを稼働させないかな。稼働させる不安を顧みれば……。


「だからこそ平日昼間に稼働していないトラックこそが、事故車両と言うわけです」


 仕事には出せない車両という意味でですね。


 もはや、無言で、うなずく事しかできない。


 このトラックが、それなのだという証明は理解してから納得した。


 そこで、また思う。


 いや、でも今はそれよりも大事な事がある。


 と……。


 すでに記すまでもない事となっているが、敢えて記そう。そうだ。次の一手、なにをどう調べればいいのかという事を知りたいわけだ。だが、フー・ダニットという性悪探偵は、今、知りたい事を教えずに、どちらでもいい事を教えてくる人間だった。


 そういったイヤミ感がたっぷりな人間といえばより正確だろうか。


 むしろ、


 いらない情報を与えて、混乱させる意図さえあるのではないかと勘ぐってしまう。


 それも、


 また記すまでもない事だが、明記しておく。


 敢えて。


 疲れた。


 本当に。

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