#02 顕示欲
「というか、ケンダマンって本当に金塊好きだよね。依頼成立の時も金塊の事を言ってたし。しかも時価まで知ってるっていう好きっぷりアピール全開だったわさ」
うおっ。
ハウとホワイの中で、僕は金塊好きになってしまっているようだ。
いや、もちろん嫌いではない。
むしろ好きだが、それでも守銭奴だと思われてしまうのは心外だ。
眉頭を寄せ眉間にしわを作る。
カネは生きていく為に必要なものだ。今のご時世、なにをするにもカネだからな。カネがなければ、なにも出来ない。その意味で好きと問われれば首肯する。それでもカネが全てだとは思わない。無いならば無いで、なんとかなるとすら考えているぞ。
「ハウ、こんな言葉を知っていますか? カネで幸せは買えないかもしない。それでも少なくとも惨めさを解消してくれる、というものです。面白い言葉でしょ?」
面白いか? 一体、なにがだ?
「もしかして劣等感の塊だって言いたいの?」
「フフフ。そうは言ってません。ただ文章に自分の思いをぶつける人間は得てして自己顕示欲が他人よりも、少々、強いのかもしれませんね。そうは思わない?」
「うん? ハウちゃんには良く分からんけど、まあ、そんな部分はあるのかもしれないね。だから金塊に詳しいって言いたいの? ……って、ああ、そうか。なるほど」
と、ハウが右拳を左手のひらに打ち付ける。
得心と。
「ふふふ。そういう事ですわ。自己顕示欲が強いからこそなのです」
愛らしい瞳をくりっと動かして笑うホワイ。
馬鹿にされたようにも思えるが、ここで反論を繰り広げても意味はないだろう。
ともかく、そんな事よりも、せっかくトラックを調べられるのだ。それを無駄にしない為にも、どこをどう調べるのかをハッキリさせるべきだ。色んな可能性を頭に浮かべて思案する。しかしながら事態は一向に進展しない。疲労感が募るだけ。
遂には考えるのが面倒くさくなってきて、思考が停止してしまう。
もう、なんでもいいとばかりに無為にトラックに近寄って調べる。
奈緒子を跳ね飛ばしたかもしれないフロント、事件当夜、雨に打たれて視界が狭まっていたであろうフロントガラス、なにも関係がないのかもしれない荷台など順繰りに見て回る。もちろんタイヤも。しかし、当然と言うべきか、なにも得られない。
疲れた。
どっと。
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