#06 ブラウン・マジェスカ
「暑苦しい。むさ苦しい。見苦しいの三拍子」
鬱陶しいと鼻頭に付いたハウの右人差し指をハエでも払うよう払い落とすホワイ。
「グギギ」
声にならない音を口から盛大に漏らすハウ。
というか、もはや恒例ともいえる姉妹のキャットファイト。今回は掴みかかるほどの勢いはない。それでも険悪な雰囲気。にらみ合っている。僕には、毎回、毎回、よくやるよという感想しかない。こうなると次は、彼が、この場を収めるんだろう。
案の定。
フーは、
パチンと大きくも威厳のある音を立てて両手のひらを打ち合わせる。
「いい加減にしなさい。止めなさい。毎度毎度、呆られますよ? ハウの情報収集は秀逸でした。ホワイの言う事も分かります。よろしい。では、こうしましょう」
と苦々しい顔つきで、やれやれと仲裁する。
「今、ハウが、一体、なにをしていたのか、ヒント料なしで教えるでいいですね?」
と、また、あの温和な笑みへと戻ってゆく。
思うのだが、ハウもホワイも卓越した捜査能力と推理力を持つが、フーという家長がいなければ2人は上手く機能しないのではなかろうか。いや、全くと機能しないと言ってもしまっても良い。そういった意味でダニットは3人いて一人前なんだろう。
いや、少々、違うかな。
フーという怪奇な人間は、いまだ、その全容を衆目へと晒してはいないのだから。
兎に角。
ハウが渋々ながらのろのろと説明し始めた。
と、その前にホワイの視線がどこかに泳ぐ。
僕は、ある種の危険信号のようなものを察知して、そちらが、気になってしまう。
今までハウに向けられていた、ある意味で平和とも言い換えられる視線が、いきなり鋭くなって真逆な方向へと動いていったのだから。何かを考えている、或いは、想像しているといった類いの視線動作ではない。明らかに敵意が籠もったソレ。
な、なんだ、どうした?
その視線の先には……、
黒塗りのブラウン・マジェスカ。度々、目撃されている、あの車が、また現れた。
もはや僕でも分かる。隠す必要もない。だから書いておく。あの車、いや、正確には、あの車の運転手こそが事件においてのキーマンなんだろう。だからこそ僕もホワイの視線が気になってしまったのだ。あの車の運転手は、一体、誰なんだ?
射貫くほどまでの敵意にあてられてなのか、ゆっくりと発進し始めるマジェスカ。
目の前から消えてゆく。
春がきて雪が溶けるよう、かき消えてゆく。
黒い雪が淡い闇の中へ。
徐々に。そして確実に。
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