#08 分かるようで

 落ち着いて考える。


 奈緒子はトラックに轢かれて死んだ。今、手の内に在る確かな事実。その事実をパチンコ玉と絡めてみる。様々な状況や場面を想定して〔※とはいえど単なるフリーライターの浅はかな考えでしかないが〕、頭の中でシミュレーションを繰り返す。


 やはり、僕では、転ぶというものしか思い浮かばない。


 しかし、


 トラックが関わってこれば少しは現実的な殺害方法が思い浮かぶ。無論、いくらかはマシという話でしかなく現実的ではない。つまり、奈緒子が転んだあと立ち上がるまでの間にトラックが彼女を轢き殺したというものだ。うむむ。無理がある。


 これも素人目に見ても非現実的な殺害方法でしかない。


「ケンダマン、もしか、パチンコ玉で余計に混乱した?」


 ハウが顔をのぞき込んでくる。


 距離感というものを知らないのか相変わらず顔と顔の距離が限りなくゼロに近い。


 ドキッともするが、ある意味で予定調和とも感じていて落ち着いた所作で肩を掴み押し返す。また目を閉じて考える。中国の山奥にいるであろう伝説の仙人が毎日のルーティンで瞑想に耽るよう思いを巡らす。遠くから孫悟空の声が聞こえる。


 お前はお釈迦様の手のひらの上で足掻いているだけだ。


 と……。


 無論、この場合での、お釈迦様は、性悪で意地も悪い。


「ホホホ」


 と、片仮名での高笑いが、僕の耳へと届く。


 つまり、お釈迦様Bの笑いだ。


 また僕の心を読んだのだろう。


「ハウ、もうそろそろいいんじゃないですか」


 なにが?


「いつも、あなたはもったいぶり過ぎなのです。パチンコ玉がどんな意味を持っているのかくらいは明かしても問題ないと思いますわ。アイビーを見習いなさい」


 アイビーは花で多分、花言葉は誠実じゃないだろうか。


「へいへい、姉貴。了解ですわ」


 と帽子のつばを触って、つばをぐいっと下へと動かす。


 ふて腐れているのか、帽子のつばで顔を隠してしまう。


 渋々、ぽつぽつと雨が降るよう口から言葉を吐き出す。


「ていうか、この事件においてのパチンコ玉はダミーだわさ。布石みたいなもんよ。直接的には関係ないわさ。まず、これを手がかりにしてから考えてみるといいよ」


 ……直接的には関係ないだと?


 つまり、


 関係ないと言えば関係ないし、逆に深くも関わっているとも言えるという感じか。


 なんとも玉虫色なヒントだが、ダミーという言葉と布石という言葉をミックスすると、そういったものにしかたどり着けない。ただ、同時に、転ばせるというギミックは無いのが明確になった。なぜならば布石で直接的には関係がないのだから。


「……余計に分からなくなった」


 分からないによって、図らず、こんな言の葉が漏れる。


 遙か上空でトンビが旋回滑空してピーヒョロロッロッロと威嚇するよう鳴き喚く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る