#11 ポアロ

「フムッ」


 フーは顎を撫でて目を細め笑む。


「実を言えば、ここから先はトリックの話になってきます。もちろん、合間、合間に動機や犯人の話にもなってきますが、主軸となるのはトリックの解明でしょう」


 その意味でのハウからのヒント請求なのですよ。


 などとは言われなかったが、そういった意味をも内包した発言だろう。


 であるならば、犯人と動機、そしてトリックが出揃う事になるであろうハウからのヒントは聞いておくべきだ。たとえ、ここでヒントの回数を消費してヒント料を払ったとしてもだ。僕は無言で頷き、それから封筒から静かに5万円を取り出す。


 ちょっとだけ惜しい気もするが。


「分かった。ヒントを頼む、ハウ」


 ある意味ではだが納得して笑む。


 ハウは、


 嬉しそうに、ひったくって、5万円を手にする。


 しかし、コツンと軽くハウの頭を小突いて彼女が手に取ったソレを奪い去るフー。


 ハウは、えへへと悪戯っぽくも笑って舌を出す。


 そして、


「OKッ」


 と指で作ったOKサインをずいっと僕に魅せる。


「このサインはね。昨今、白人至上主義の印なんて言われててさ。このサインをして見せたユニバーサルスタジオのスタッフが解雇されるなんて事件も起きてるのよ」


 何の話だ。いきなり。……いや、これがヒント?


「言葉狩りならぬ、仕草狩りって言われてるんよ」


 うん。だから何なんだよ。一体、何が何なんだ。


「つまりだね。この森本奈緒子事件でのトリックにも仕草ってのが、すごく重要なんだよ。むしろ仕草が在るからこそ存在し得るトリックなわけだわさ。分かる?」


 仕草か。


「まあ、でも仕草というよりは正確には動作かな。どっちでもいいけど」


 どこから取り出したのか、黒く逞しい付け髭を取り出して鼻の下に装着するハウ。


 もしかしてだが、それはポアロのつもりなのか?


 威厳がない口髭を静かに撫でる。


「フム。考慮に入れなくていい事など一つもありません。もし、ある事実が推理と一致しなかったら、その時は、その推理を捨てる事ですってね。これは知ってる?」


 確か、ポアロの名言だったはず。


 名探偵エルキュール・ポアロの。


「あたし達〔※主にフー〕は事ある毎に推理においての真実は一つで在ってはならないって言ってるけど、これこそが、それを如実に示してるんよね。だよね?」


「コラッ」


 ホワイがハウの頭を軽く小突く。


「それを権威を笠に着るというのですよ。誰が、なにを言おうが、真相は一つであってはならないと言うべきなのです。嫌らしい。私はハウのそういう所が嫌いです」


 てへへと、また悪戯っぽく笑いながら反論し始めるハウ。


「あたしは姉貴のそういうとこ嫌い。ハウちゃんだって別に権威を笠に着るつもりはないよ。事実を言ってるだけ。でも、それを嫌らしいと感じる感性がねぇ」


 というか、ここで恒例のキャットファイトが始まったぞ。


 頼むから、いい加減にしてくれ。

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