#07 僕なり

 アハッ! 煽られたのも分かんないなんてね。


 などという言葉が、ハウから発せられたような気もしたが、気にもとめなかった。


 煽られたのであれば煽られたでいい。それよりも重要なのはゲームに勝利する事。それだけなのだ。フーを睨みつける。対して彼は飄々としたもので、その心は、ここにあらず。冬の乾いた風に乗って軽いステップを踏む。華麗に輪舞曲を舞う。


 さてと。


 僕は、ここでヒントを消費するのはどうだろうかと考える。


 安易にヒントに手を出すのは、避けた方がいいとも思える。


 じゃぁ、


 …――まずは、なにをすべきか?


 これを考えなくては、いけない。


 じゃ、手がかりは、なにがある?


 くどいようだが、犯人は川村一正だとという事と動機が怨恨だという事の二つだ。


 というか、この二点のはフー達の推理での結論でしかない。


 ただし、


 思考の混乱を避ける為に、今だけは信じて話を進めようか。


 以上の二点以外で気になる事はといえば、もう一人の容疑者。野々村秀也が、どういった人間で、今回の事件に、どんな関わりをもっているのかという事。それは明かされてはいない。知りたいと思う。だったら、まずは秀也に会いに行くべきか?


 それも、ありだろう。


 いや、でもホワイいわく川村一正は奈緒子に裏切られて恨んだ末に殺したという。


 だが、ここで警察関係者から聞いた話が障害になる。警察は一正と奈緒子の関係は至って良好であったと結論づけている。無論、ホワイにとっては上辺だけという話なのだろう。それでも、警察は、良好だとしか判断できなかったわけだ。


 そこに不思議が在る。


 この国の警察は優秀であるから、そう結論づける為の確固たる理由があるはずだ。


 その理由を知る為にも川村一正に会いに行って話を聞くか?


 それも、またありだ。


 でもホワイの動機推理がどうにも引っかかる。彼女も、なんらかの根拠があるからこそ怨恨だと言っているのだ。その根拠とは、なんだ? 川村一正が奈緒子を殺してしまうほどの怨恨を抱くに至った、なんらかの原因が根拠になっているのか?


 いや、ちょっと待て。


 むしろ、


 客観的に判断して良好に見えたという事は一正が演技をしていた可能性もある。関係良好を装う為の演出。演技をするほどに恨みが募っていたとは考えられないか。じゃ、その原因はなんだ? ともすれば、そこに野々村秀也がかかわっていたのか?


 やっぱり野々村秀也に会いに行くのが先決か?


 待て待て。ちょっとだけ待てよ。落ち着け僕。


 そういえば、野々村秀也は、奈緒子の元カレ。


 そして、


 別れたあとも言い寄る男に制裁を加えたという事実がある。


 それは、過激な暴力も含めた恫喝であり、とても凄惨なものだったと聞いている。


 じゃ、その制裁を一正が受けていた可能性は?


 いや、可能性というよりも、確実に制裁を受けていたとみるべきだろう。なぜならば、秀也は奈緒子に言い寄る男どもに片っ端から制裁を加えていたわけだから、現在の彼氏である一正だけに制裁を加えていなかったと考えるのは不自然極まりない。


 無論、秀也が、よりを戻したいと願っているからこそ、だ。


 余計に、一正には荒々しい暴力をふるっていたと思われる。


 だとは思う、……思うが。どうなんだろうか?


 いかんせん僕は素人だからこそ、いまいち自信が持てない。


 じゃ、まずは川村一正に会いに行くのが正解なのか、それとも野々村秀也なのか?

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